電子雑誌は新たなデジタルマーケットの源泉になるか――その課題:雑誌は今
電子書籍と比べ、まだこれからといった印象の電子雑誌。しかし、メタデータ周りの整備が進みつつある現在、雑誌というブランドを生かしたデジタルマーケットが大きくなるかもしれない。
電子雑誌は電子書籍と違う夢を見るか
電子雑誌――ここでは電子書籍と明示的に区別して利用する――は、まだこれからの市場だ。日本雑誌協会(雑協)が主催している今年の「雑誌愛読月間」(7月21日〜8月20日)では、その歴史で初めて電子雑誌が加わったが、電子書籍のラインアップに比べ、電子雑誌のそれはまだわずかだ。
ヤッパが提供する「SpinMedia」は電子雑誌の配信でよく知られたソリューションだが、基本的には画像やPDFベースのもので、さまざまな画面サイズで紙と同じような一覧性を発揮できているとは言いがたいとう側面もある。シャープやモリサワなどは、それぞれXMDFやMCMagazineで、レイアウトとテキストを分離させるなどして電子雑誌の可読性を向上させていたりする例もあるが、全体的には量も質もまだまだ、というのが消費者からみた電子雑誌の印象といえるだろう。
判型を生かしたレイアウト自体に意味があるとよく言われる雑誌は、文字中心の書籍と異なり、電子化が容易ではない。それが、画像やPDFベースで提供されている理由の1つでもある。電子出版に関する諸問題がコンパクトにまとまっている書籍の方が電子化をやりやすいというのは事実だ。権利の問題1つ取り上げても、雑誌は書籍と比べ複雑なパッケージで、従来型の雑誌広告のビジネスモデルをどう電子雑誌で展開するかなどまで考えれば、そこには解決すべき問題が山積している。
電子雑誌化することで、本誌とは異なる属性のユーザーを獲得している講談社のFRIDAYのようなケースもあるが、多くの出版社からは、「本当の意味でユーザーニーズに合ったものではないんじゃないか」「デジタルリプレイスするだけで本当に売れるのか?」といった声はよく聞かれる。
こうした状況もあり、電子雑誌については各出版社で戦略がバラバラだ。実際、有名雑誌を数多く抱えながらも、電子雑誌はまだ一冊も提供していない出版社だってある。これは、「マーケットがないところにコンテンツを出してもしょうがない」というある種もっともな考えに基づくものだが、それでも鶏と卵の関係で、「コンテンツがなければマーケットも育たない」と考えれば、認知度が自然増で高まるのを期待するより、何か手を打つべきだということもできる。上述の雑誌愛読月間で今回、電子雑誌が加わったのもそうした背景があるのだろう。
ポイントはメタデータ、雑誌ブランドを生かしたデジタルマーケットは立ち上がるか
こうした状況が続く中、それを打開する動きはあるものなのだろうか。そうした基盤になりそうなのが、メタデータの整備だ。その点で、IDEAllianceが仕様策定を進めるメタデータのセットやメッセージングの仕様が注目されている。
IDEAllianceは、出版社や情報関連企業向けに標準の開発とその普及を目的として作られた雑誌業界の国際的な標準化団体。少し電子書籍の市場に詳しい方なら、「EPUB」という世界標準の電子書籍フォーマットを推進するIDPF(国際電子出版フォーラム)をご存じだろう。IDEAllianceも同様の団体と考えればよい。
雑誌という文脈について言えば、Publishing Requirements for Industry Standard Metadata、頭文字をとって「PRISM」と呼ばれるメタデータのセットや、その配信にかかわる「PAM」(PRISM Aggregator Message)と呼ばれるメッセージングの仕様などを推進している。直近では、これらをベースにした電子雑誌の流通用交換フォーマット「PAMP」(PRISMベースのコンテンツ仕様の実装モデル)の策定を進めている。これは要するに、書誌情報の共通化と、号・記事単位のメタデータ管理を国際的にきちんと整備しようとする動きだ。日本雑誌協会からもPAMPに関するリリースが出ているが、世界で共通したメタデータセットの仕様がきちんと策定されるかは国内外の雑誌・新聞社の関心事である。
メタデータという意味では、PRISMはEDItEURの「ONIX」と比較されるべきものだ。どちらもXMLベースのメタデータだが、ではなぜ雑誌はONIXではなくPRISMが注目されるのだろう。それは、雑誌のメタデータが書籍と比べて膨大で、雑誌特有のメタデータを扱うにはONIXでは対応しきれないからだ。
書籍だとそうでもないが、複数のトピックを扱う雑誌や新聞では、記事ごとに権利情報が違うことも珍しくない。記事の書き手などもそれぞれのページで違うこともままある。だから、1冊単位のメタデータでは少し都合が悪い。
日本は書籍・雑誌と新聞の業界は割とキレイに切り分けられているが、欧米ではむしろ新聞・雑誌と書籍で切り分けられている。記事単位で書誌情報を付けられるPRISMのアプローチは新聞・雑誌のニーズに応えるものといえ、PRISMで規定された形で、誌面に掲載しなかったものも含め、制作したコンテンツを無駄なく(ビジネスとして)活用することを想定しているように見える。ここは、雑誌というパッケージを作るところで終わってしまっている日本の現状とは少し異なる部分だが、その重要性は国内出版社も理解を深めているようだ。
ここまで書くと、今、国内の多くの出版社が考えているのは、「雑誌というブランドを生かしてデジタルマーケットをどう創り上げていくか」なのだろうと想像力を働かせることができる。もちろんそれは電子雑誌、という形もあるだろうが、記事単位(マイクロコンテンツと呼んでもいいだろう)の形態になるかもしれない。そうした世界を見越してメタデータレベルでの整備が重要な意味を持ちつつある。
メタデータレベルで整備されれば、電子の形を生かした検索連動など、雑誌との相性が良さそうな技術と組み合わせることで、電子書籍とはまた異なる動きを見せるかもしれない。電子雑誌の今後を考える上で、PAMPの動向は注目に値するだろう。
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