僕らの知る「漫画」は衰退する? 漫画家3人が語る“デジタル×漫画”の未来(2/2 ページ)
「絵に物語を付けるというスタイルはなくならない。でも、今の漫画はなくなるかもしれない」――Kindle初の日本語漫画を配信したことでも知られる漫画家・うめ氏はそう語る。電子漫画に造詣の深い3人の漫画家が、“デジタル×漫画”の将来を議論した。
「一律300円じゃ全く食えない」
『スティーブズ』は元々、iPhoneアプリとして販売すべくうめ氏が描き下ろしたもので、原稿はiPhone 5以前のiPhoneの画面比率に最適化されている。そのままiPhoneアプリになるはずだったが、漫画の内容があまりに「リアルアップルストーリーでリアルアップルイメージ」(うめ氏)なため、アプリ申請がAppleにリジェクトされてしまったという。そこでブクログのパブーで作品を公開。さらにはCAMPFIREで続編のパトロンを募集する流れとなった。
CAMPFIREでは12月現在、目標の2倍となる100万円以上の支援金が集まっている。うめ氏はパトロンの募集にあたって、500円〜10万円のレンジで幾つかの支援プログラムを用意。例えば500円を支援すると連載4カ月分(800円分)が無料、1000円だとこれに描きおろし特製ペーパー画像のプレゼントが付く――といった風に、金額に応じて特典のグレードが上がるようにした。最も高額な10万円のプログラムには、巻末にエクゼクティブプロデューサーとして名を連ねる権利や、サイン会の打ち上げへの招待、各種のサイン本や色紙のプレゼントといったプレミアムな特典が付いている。
値段に幅を持たせて資金を募集したうめ氏のやり方を、鈴木氏は「上手い!」と評価する。「もし募集金額が全員一律300円じゃ全く食えない。これが、電子の世界で食えない最大の理由だと思っている。払う人は3万円でも5万円でも払える仕組みをどう作るかが難しいところ」(鈴木氏)。うめ氏によれば、募集を始めて最初に売り切れたのは、提供数が3つしかない10万円のプログラムだったそうだ。
ただ、CAMPFIREで募集した50万円という金額は、1話分の原稿料とCAMPFIRE運営側へのマージンを想定した上での金額で、パトロンからの支援だけで漫画連載を続けていくのは難しいとうめ氏は見ている。そこで今回のパトロン募集では、作品の連載優先交渉権という特典がついた“企業向けプログラム”を10万円で提供した。この権利は、星海社が獲得しており、今後は同社が絡む形で作品の続編が日の目を見ることになりそうだ。
漫画家や編集者に求められる、Web上でのプロデュース能力
ところで、この『スティーブズ』のパトロン募集の告知はどのようにして行われたのだろうか。驚くことに、「Twitterオンリー」だとうめ氏は話す。メルマガやブログなども駆使する予定だったが、Twitterでの告知が瞬く間に広まり、「ほかの媒体を使う時間もなく」目標金額に達したそうだ。
うめ氏はTwitterのフォロワーが1万人を突破している“アルファツイッタラー”で、情報の拡散力も高い。自身のTwitterアカウントでの告知ツイートはあっという間に“RT(Retweet)の嵐”を呼んだ。うめ氏は最近、このRTのされ方で「大体何万人くらいに見られたかが体感で分かるようになってきた」と話す。RTの嵐が起きている中で、「ネガティブな意見がどれくらいの速さで出るか」で広がりが推測できるという。
「基本肯定のRTが多い中で、つまんない、なってないみたいな意見が1人出てくると、大体3万人くらいに広がったと思っている。スティーブズではそういうRTがパパっと4、5人出てきたので、これは10万人軽く超えたなと思った」(うめ氏)
漫画家自身がソーシャル上で影響力を持ち、自身の作品を広める――ネット上ではこうした宣伝能力・セルフプロデュース能力のある作家に人気が集まっているというのが、漫画家3人の共通認識だ。逆にいえば、ネット上での作品展開で大きな課題となっているのは“宣伝力の乏しさ”だと萱島氏は指摘する。「紙はヤバイといろいろ言われているが、雑誌の宣伝力や本屋というタッチポイントは相当すごい。Webでは面白いものを作ったとしても、それを届ける手段がない」(萱島氏)。そして萱島氏は、「漫画とは違う方向で、例えばアイドル的な感じでフォロワーをたくさん作って、それから漫画を広めてく」といった漫画家のあり方も、これからの時代には考えられるとも話す。
しかし、面白い作品を作る漫画家が、必ずしもセルフプロデュース能力を兼ね備えているわけではない。うめ氏の感覚では「そうじゃない(プロデュース能力がない)漫画家のほうが圧倒的に多い」という。さらに鈴木氏は、そもそもセルフプロデュースに時間をさく余裕がない漫画家が多いと指摘する。うめ氏の場合、「2人組でやっているから時間的余裕がある」という。
こうした状況を振り返りながら鈴木氏は、漫画家に替わって“Webで仕掛けられる”編集者が必要だと話す。うめ氏は議論の中で、講談社の編集者が独立して設立した作家エージェント会社・コルクについて言及。コルクの社長である佐渡島庸平氏は小山宙哉氏の人気漫画『宇宙兄弟』の担当編集でもあり、コルクは小山宙哉氏のエージェントを受け持っている。
うめ氏は、宇宙兄弟のTwitterアカウントの運用の上手さに触れつつ、担当していた佐渡島氏の運用術を評価。電子書籍が本格化していく中で、Webを理解した編集者が「これから増えていくと思う」と期待を寄せた。
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