「読書革命」第2幕なるか? 再起動したKoboの反省と挑戦:まつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト(2/3 ページ)
2013年、電子書籍は新たな局面に直面していた。そんな変化の最前線を行く人々にその知恵と情熱を聞くこの連載。今回は、楽天の舟木徹執行役員にKoboの現在と目指す未来、そしてその戦略について聞いた。
紙と電子のインテグレーション
―― ユーザーの利便性という面でアマゾンKindleと他の電子書店を分けるのが、やはり紙の書籍と電子書籍が同じページに配置され、比較・検討できる点です。楽天でもkoboと楽天ブックスとの統合が予定されていますが、今後のスケジュール感は?
田中 インテグレーション第1弾が4月に終わり、楽天ブックス上からKoboのコンテンツへ、紙の書籍があるものについてはそこから電子版へのリンクを張られている状態になっています。これからさらに電子で出している全タイトル15万タイトルが楽天ブックスでもすべて出る、というインテグレーションを11月に予定しています。
―― なるほど、セルフパブリッシングのように、紙の書籍が出ていないタイトルでも楽天ブックスで検索し、Koboへ遷移して購入が可能になる、ということですね。Koboから楽天ブックスへという導線は用意されないのでしょうか?
舟木 それは今のところ考えていないです。そこは圧倒的に紙の方が集客力があり、かつ、紙のシステムの方が検索性など含めて、積み上げてきたものがあるので、そちらから導線を貼ります。
―― そこが、Koboのユニークなところでもあり、もしかすると悩ましいところかもしれません。グローバルに一気通貫の仕組みを展開するアマゾンKindleは日本法人の人に「どうしてこういう仕様になっているのでしょうか?」と話を聞いても「グローバルでこうなっているからです」という答えに終始してしまいます。
各国の既存の書籍販売サイトが参加できることを売りとするKoboは、逆に言うと、それぞれの国ごと、リージョンごとにやり方が違ってきます。したがって楽天ブックスとKoboという、異質なサイト同士をリンクさせる必要があって、一方通行になる。おっしゃる通り紙の方が利用者数のボリュームが圧倒的に大きいのは分かるのですが、ユーザーとしてはやはり、双方向にリンクされている状態が望ましい。というか、そもそもサイト間の遷移を意識させないくらいがありがたいかと思うのですが、それはやはり難しいのでしょうか?
田中 いずれその状態を目指そうとは考えています。
―― 今、サブドメインrakuten.kobobooks.comでは、楽天の配下という形でKoboのページがありますが、海外でKoboが主導しているドメイン側のコントロールは大変なのかなと推測しているのですが。
舟木 そうですね。グローバルの優先順位の中での決定になるので、全部日本の要望を押し通すのは難しいです。そこは彼らのシステムアーキテクチャ上も、なかなか今は触りにくいところがあるので、こういう形で1年来た、ということです。
―― 前回、Koboのマイケル・サビニスCEOにお話を伺ったときには、日本語検索で苦労されている状況でした。そういった問題の改善を図るために、日本の技術スタッフもカナダに行き現地で対応を図っているということでしたが、現在はどういう状況ですか?
田中 開発要員が向こうに行って、という取り組みは今でも継続しています。例えば先日、iOSアプリをリリースしましたが、それは日本側のエンジニアが向こうに行って、カナダのエンジニアと共同で作っており、そうしたプロジェクトベースでの連携は増えていますね。Kobo側もアーキテクチャの改良を進めていますから、だんだん各国の事情や要望に合わせた開発が行いやすくなるはずです。今ちょうどグローバルのコンテンツ販売ストアの全面刷新を進めていますが、そこでは各機能のAPI化がほぼ施されているはずです。
―― 楽天も高い技術力を持っていますが、電子書籍に関してそれが生かされる場面はありますか?
田中 検索機能にもまだ改善の余地があります。また、楽天ブックスでは実現しているまとめ買いの機能や、ポイントの付与率を変動させるといった機能を反映させていくことができればと考えています。
ハイブリッド書店でアマゾンKindleと戦う
―― 出版取次第3位への参画が報じられました。仮に紙の書籍の流通にも参画することになれば、電子書籍の品ぞろえにもプラスの効果があるという期待もあります。
舟木 その件は当社から発表したものではなく、現時点で公表すべき事実はありませんので、あくまで私たちが求める理想の姿という前提でお話したいと思います。
いまリアルの本屋に来ているお客さんも、並行してAmazonで買い物をされています。そういったお客さんを、Amazonではなくて楽天にも来てもらいたい、というのがまず大きな目標です。
先日の説明会でもお話ししましたが、電子書籍だけを見ればトップランナーのアマゾンKindleとはこれだけ差がついているから、その中だけで勝負していくのは大変です。その手前でお客さんを捕まえスイッチを促していきたいと考えています。
―― その取り組みの一端が、書店内でのkoboストア展開ですね。
舟木 はい。書店でリーダーが売れた場合にマージンを取って頂くのに加えて、以降その端末で購入されたコンテンツに対しても、継続的にレベニューシェアが行われるのが、大きな特徴です。
―― 具体的には楽天IDと購入書店をひもづけ、そのIDでKobo関係の買い物をした場合には還元されるというイメージですね。
田中 はい、楽天IDと紐づいているので、端末からの購入のみならずWebやアプリからのお買いものも、還元の対象となります。
舟木 つまり楽天の会員基盤を、本屋さんにとってのCRMの基盤として活用頂くことで、レベニューシェアは広がっていくと考えています。従来の配本・返品という世界だけではなく、意欲のある書店はマーケティングを行い、売れる本の品ぞろえを図っていく、という世界に一歩踏み出すきっかけにして頂ければと。つまり、わたしの出身でもあるTSUTAYA書店のイメージに近いとも言えるかもしれません。
―― 継続的なレベニューシェアで書店に還元が続く、仮に取次流通から各書店のマーケティングを支援することができるようになれば、書店が減少しつづける現状への回答の1つになり得るかもしれませんね。
舟木 そうですね。まさにリアルの書店と連携することで、Eコマース、ひいては電子書籍の新規顧客につながることを目指しているわけです。個々の本屋ではECまではなかなか手を広げられないし、そのための在庫もそろえられない。楽天koboが裏方として端末や品揃えを提供します。
逆に、私たちにできないのはリアルの書店展開や、リアルの世界でお客を捕まえてくるところです。これをリアルな本屋さんにお任せしたいと。楽天IDがECとリアルな書店を結ぶわけです。
ブックフェアの講演でKADOKAWA取締役会長の角川歴彦氏が「ハイブリッド書店」という概念を紹介されましたが、私たちはそれを作り出すことができると考えています。
―― あとどのくらいの期間でそこにたどり着けそうでしょうか。
舟木 そんなに掛からないと思います。あと1、2年といったところでしょうか。電子書籍のインフラは既にあり、それをそのまま提供しようと思っていますし、店頭翌日配送の仕組みもまだ課題はありますが、整えつつあります。あとは、ポイントカードシステムさえうまくいければ、そんなに時間はかからないはずです。
楽天で買った本を書店の店頭受け取りもできるようになりますし、店頭に在庫が無くても、サービスカウンターで楽天ブックスの市川倉庫に在庫があれば、それを発送し、翌日には受け取りが可能になる、というイメージですね。
―― 角川会長が言っていた、本の商流全体を通じて、Amazonに対抗し得るような仕組みが顧客に対して提供できるということですね?
舟木 できますね。確実にできます。
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