彼は人の中にまぎれて
ずっと私を見ていたのだ
ずっと……
映画、小説、どの媒体にも限らず、昔から吸血鬼という存在は、その圧倒的な存在感からか、多くの物語に登場し、華々しい活躍を見せてきた。しかし、花田 陵さん作、『デビルズライン』(講談社/モーニングKC) に登場する吸血鬼から感じるものは、圧倒的な存在感ではなく、孤独感であった。
都会の喧騒に紛れ、発生する連続殺人事件。被害者は、例外なく体内の血液を奪われ、遺体の首には犬歯の跡が残っていたことから、巷には「吸血鬼連続殺人」のうわさが流れる。
そんな中、恋愛に疎く、純情な大学院生・平 つかさ(たいら つかさ)は、同級生の秋村 肖太(あきむら しょうた)らと同乗した電車の中で、自分にじっと向けられた男の目線に気付く。
電車を降りてなお、その男の視線があることに気づいたつかさは、秋村とともに帰路を急ぐが、その先に待ち受けていたのはつかさにとって衝撃的な事実だった。
よう 吸血鬼
男の血じゃ物足りないか
そこに現れた男、安斎 結貴(あんざい ゆうき)。年齢:不詳、特技:不法侵入、健康状態:慢性的貧血、好きな色:赤。謎に満ちた彼の語る事実が、つかさの世界をがらりと一変させ、やがて恋愛に疎かったはずの彼女の行動を大きく変えることとなる。
この物語の展開は常に劇的だ。性と暴力が交差し、吸血鬼と人間が住まう世界の中で、安斎とつかさの間に少しずつ、だが着実に愛が育まれていく。
エロティックでダークな世界観を保ちながら、安斎とつかさの関係性は驚くほどピュアでホワイトだ。そんな2人の交流に、少女漫画さながらのときめきを得ながら次のページをめくると、そこには思いもよらない展開が待ち受けている。2人の心が近づくたびに、吸血鬼という存在が彼らの距離を引き離す。
“お前は どうして俺を怖がらない――?
俺は汚い
体の中に醜い鬼を抱えながら
正義の味方気取りか
でも 今だけは
傍にいて……やらないと……”
ヒトとオニの間で揺れ動く安斎の精神と、そんな彼を想い続けるつかさの関係が何ともいえず切ない。次々に事件が発生し、スピーディーに進む物語の中で、ゆっくり育まれていく彼らの関係。デビルズラインの世界観は絶妙なバランスを保ち続けている。
今後、彼らの前に立ちふさがる事件はどんなものだろうか。安斎は、つかさは、どう立ち向かっていくのだろうか。吸血鬼と人は本当に共存できるのか。
どんな未来が待っているにせよ、彼ら2人の幸せを願わずにはいられない。
(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)
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