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マンガでもっと稼ぐには? 「映画モデル」はどうだろうeBookマーケットリーダー

出版市場は、じわじわ縮小している。マンガではもう、稼げないのか? 筆者は、マネタイズに工夫の余地があると考える。

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 出版市場は、じわじわと縮小している。

 出版科学研究所の発表によれば、2013年の書籍・雑誌の推定販売金額は1兆6823億円。実に9年連続での前年割れであり、1996年のピーク時の「2兆6564億円」と比較すると、なんと約63%の水準になっている。

 これと同時に、マンガ市場も縮小傾向だ。少し古いデータになるが「2011出版指標年報」によると、コミックスこそ市場規模が横ばい傾向だが、コミック誌については93〜96年ごろの水準から、半減に近くなっている。総論ではあるが、出版業界、およびマンガ業界のプレイヤーで、売上を落とす事業者が出てきているということだ。


コミック推定販売額(出典:全国出版協会)

 それならば、出版業界、特にマンガ業界が再び大いに稼ぐためには、どうしたらよいのか? というのが本稿のテーマだ。

「書店」のLINEマンガ、「編集部」のマンガボックス

 まずは市場背景を考えてみよう。96年ごろと今とで大きく違うのは、スマホがあるか、ないかだろう。それならば、マンガ業界は、「スマホで稼ぐ」ことを考えるといいかもしれない。

 実際、昨年辺りから「LINEマンガ」「マンガボックス」のようなヒットアプリが出始めている。まさにこれは、スマホ×マンガで稼ごう、という試みにほかならない。

 ここで筆者の独断と偏見で分類させてもらえば、LINEマンガは究極的には、「書店」だ。マンガを紹介し、1巻無料、といった形でプロモーションして、最終的には購入してもらう。1話ずつ公開して「疑似連載」の形式をとる……という取り組みもあるが、基本は試し読みから、購入促進だ。恐らく、最新作が売れ筋となる。

 一方でマンガボックスの場合は、「編集部」もしくは「雑誌創刊」に近いといえる。独自に編集部を立ち上げ、著作権処理上、比較的自由にできる作品群を育てあげる。あとは販売なり、ゲーム化なりでマネタイズする方式だ。新たに作品を「創りだす」ことに焦点をあてていると言える。

 これに対して、筆者が有望だと考えるのは、過去の作品群を「映画モデル」にあてはめるという発想。実は、SBイノベンチャーが先週発表したスマホアプリ「ハートコミックス」も、これを強く意識している。これについては少し説明が必要になる。

最初は映画館で1800円でも、無料で視聴可能に

 映画業界での、マネタイズ方法を考えてみよう。最新作がリリースされる時、その公開場所はどこだろう。――言うまでもなく「映画館」だ。価格は例えば、1800円。その映画を強く見たいと考えるファンは、1800円払っても喜んで映画を観に行くだろう。

 一方で、時間がたった作品はどうなるか。例えばだが、レンタルビデオ店に並ぶことになる(最近だと、オンラインストアかもしれない)。価格はだいぶ下がって、1作品・300円など。ここでは、「映画館には行かなかったものの、実は気になっていた」というユーザーが、視聴してくれるだろう。

 もう少し時間がたって、「名作古典」の分類になった作品はどうなるか。はたまた、来月、続編が登場する……という作品はどうなるだろうか。追加のマネタイズ/あるいは話題作りのために、地上波放送で、無料で視聴できるかもしれない。もちろんコンテンツ制作側には、テレビ局から買い付け金が支払われているはずだし、テレビ局もテレビ局で、広告収入を得ている。このように、リリースからのフェーズごとにマネタイズスキームが異なるビジネスモデルをここでは「映画モデル」と呼ぶことにしよう。

 筆者が考えるのは、これをマンガ業界にもあてはめること。今、販売絶好調の『進撃の巨人』を、すぐに全巻無料で公開するのは、誰がどう考えても、もったいない。せいぜい、1巻無料にして、新規ユーザーを開拓するぐらいがよいだろう。

 しかし、販売から10年、15年が経過し「古典名作」のジャンルに分類された作品はどうなるか。あるいは、“通常価格で売るほど旬ではない”ものの、今読み返してもしっかり面白いと考えられる作品は、どうしたらよいだろうか。

 それをフリーミアムモデルにして、新規にマネタイズすればよいのでは、というのが筆者の主張だ。基本無料にして、広告収益を得る。もちろん、短い期間で一気に読みたいであるとか、追加の価値を求めるユーザーには、追加料金を払ってもらってもよい。

 このとき、フリーミアム・プラットフォームからコンテンツ制作側には、しかるべき対価を払う。これによって、「当時、単行本は買わなかったけれど、気になってはいた」作品を、多くのユーザーに訴求し、稼げるようになるのでは……と考えている。実際、前回紹介したイグニスは、書店型でも、編集部型でもない、筆者の分類するところの「映画モデル」で大きな収益をあげている。

 マンガ業界が、こうした新たなビジネスモデルによって市場規模を拡大できるのか。そうなることを、一業界人としては願っている。

著者紹介:杉浦正武

電子コミックアプリ「ハートコミックス」の主担当者。ITmediaで5年間記者を務めた後、MBA留学(南カリフォルニア大学)、A.T.カーニー、DeNAを経てソフトバンクグループに復帰。新規事業であるハートコミックスを牽引する。



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