Netflixは第2の黒船? KADOKAWA角川歴彦会長が思う「21世紀型企業」の姿:コンテンツ東京2015リポート
当日になって急きょ「Netflixの台頭とコンテンツ産業の未来」と講演内容が変更されたコンテンツ東京2015の基調講演。KADOKAWA取締役会長、KADOKAWA・DWANGO取締役相談役の角川歴彦氏がコンテンツ産業とこれからの企業の姿について論じた。
7月3日まで東京ビッグサイトで開催される「コンテンツ東京2015」。7月2日の基調講演には、KADOKAWA取締役会長、KADOKAWA・DWANGO取締役相談役の角川歴彦氏が登壇した。
講演の題目は当初、「一億総クリエイター時代の本格的到来とコンテンツ産業の未来」と案内されていたが、当日になって急きょ「Netflixの台頭とコンテンツ産業の未来」に変更された。今秋から日本向けに映像配信サービスを開始予定のNetflixがどんなインパクトを生むのか、そのときコンテンツ産業は何と向き合うことになるのか、そんな大きな潮流が角川氏の口から語られた。
Netflixは第2の黒船か
大変なインパクトを日本の映像産業に与える――角川氏はNetflixの日本市場参入にそんな確信を持っている。
角川氏が2013年に著した『グーグル、アップルに負けない著作権法』という書籍がある。Amazon.com、Apple、Googleなどのモノポリー者(市場を独占する主要なプレーヤー)の動きを”三国志”になぞらえて権利と産業構造の変化とともにとらえた同書。それから2年たち、モノポリー者が目指す山の頂は1つで、お互いの領域を超えてぶつかり始めていると角川氏は話す。
例えばeコマースのビジネスからスタートしたAmazon.comは、今やKindleなどのハードウェア開発を手掛けてもいるし、自ら出版部門を有していたり、セルフパブリッシングサービス(KDP)を提供するなどして、直接的・間接的にコンテンツを生み出してもいる。検索技術を起点としたGoogleも米国で提供している当日配送サービス「Shopping Express」にみられるよう、それぞれの領域、あるいはリアルとネットを問わずぶつかり合っている。
角川氏は、いわゆる「電子書籍元年」に当たる年を2012年と定義。ファイルフォーマットとしてEPUB 3の普及が進んだこと、Amazon.comがKindleストアを日本でオープンしたことなどがその主な理由だが、「動画配信元年」は2013年だったと話す。
「(KADOKAWAが配給しネット配信を積極的に取り入れた)ブラッド・ピット主演の『フューリー』がヒット作になったことで動画配信元年を確信した」(角川氏)
「実感に近い」とするJVA(日本映像ソフト協会)の調査データを引用し、2014年の国内有料動画配信市場規模を614億円と紹介。セルやレンタルの市場が下降トレンドにある中、確実に成長している市場はネットテレビ時代の到来を強く予感させる。
Netflixに話を戻すと、四半期売上ですでに米Time Warner傘下のCATV局HBOの会員収入を上回っており、モバイルを中心としたデバイスと通信の組み合わせによる動画配信が、既存の放送事業に大きなインパクトを与えている。また、北米ではインターネットトラフィック(ピーク時)の約3割をNetflixが占める状態で、ユーザーの可処分時間をほかのサービス――例えば既存の放送産業――から奪っている状況にある。
角川氏はNetflixについて、GoogleやAmazonなどのモノポリー者と異なり、コンテンツを自ら制作する姿勢を明確にしており、結果としてモノポリー者の世界に新たなイノベーションを起こしつつあることも指摘。DVDのレンタル宅配サービス(2次流通)から始まったNetflixは今や3次流通の領域を席巻しているが、自ら制作するオリジナルコンテンツを携え、いずれは劇場公開など一次流通の領域まで逆流し、映画業界にもイノベーションを起こすだろうと話す。
1つの作品を流通形態/チャネルごとに順にリリースすることで収益を最大化するビジネスモデルは「ウィンドウ戦略」と呼ばれる。映画を例にすれば、劇場での公開が最初にあり(1次流通)、次いでセルやレンタルによるパッケージ流通(2次流通)、そして動画配信のデジタルネットワーク流通(3次流通)が急速に膨らみつつあるが、データという無体物で流通する領域への法整備が追いついておらず、著作権法上の矛盾が起こっていると指摘。エコシステムの根幹で、ユーザー・著作権者の双方に配慮した無体物の法整備、「クラウド時代の著作権法」が問われているなどと述べた。一連のトピックは、角川氏が過去にも提唱し、「当時は頓挫した」(角川氏)と話す「ネット法」に似たものの必要性を改めて紹介したものといえる。
21世紀型企業
法整備という外的な変化の必要性と同様にその重要性を説いたのは、企業が今後持つべき内的な理念を説く「21世紀型企業」のあり方だった。角川氏は21世紀型企業に必要な創業理念は「IOT(Internet of things)」と「O2O(Online to offiline)」の2つだと話す。
KADOKAWAとドワンゴの統合もこれになぞらえて紹介。コンテンツ創造のエコシステムにおいて、KADOKAWAのアナログプラットフォームとドワンゴのデジタルプラットフォームが目指す山の頂は一致しており、両者が補完的に統合されるとした。
そうした統合プラットフォームの成功例として紹介されたのは「闘会議」。闘会議は、ニコニコが主催するゲームイベント。特別協賛した任天堂のほか、ガンホー・オンライン・エンターテイメントやコロプラ、スクウェア・エニックス、バンダイナムコゲームスなど多くの企業が協賛した。角川氏は、「ゲームメーカーから正式な権利許諾を得て、ゲーム実況という文化を“公認”する動きは、KADOKAWAが『電撃』『ファミ通』などで培ったゲームメーカーとの良好な関係が背景にある」とし、これが結果的に(世界最大のゲームプレイ動画ライブ配信サービスを提供する)Twitchの日本進出を強力にけん制したとも話した。
すべてのモノをインターネットにつなげていこうとするIOTと、デジタルの情報世界とアナログのモノの世界をリアルタイムでつないでいこうとするO2Oは、企業行動を考えるとまったく逆の理念だと角川氏。しかし、従来型の企業(20世紀型企業)は今後、オフラインの事業だけでは生きていけず、ネット企業もビジネスを拡大する中でオフラインの壁が立ちはだかってきており、どちらかだけでは立ちゆかなくなるとした。
その文脈で、先日民事再生法の申請を発表した栗田出版販売について、「アナログプラットフォームにほころびが出てきていることを示すもの」とも言及、出版産業に対しても、「紙の本はこれからも残るが、電子書籍を正面から受け止めなければならない」などと話した。
KADOKAWAは6月に、埼玉県所沢市と提携し「COOL JAPAN FOREST構想」を発表した。これは、所沢市の旧所沢浄化センター跡地に、KADOKAWAの新しい製造・物流拠点や美術館・図書館・博物館などを併設した文化コンプレックス(複合施設)を建設する計画。
角川氏はこの取り組みについて、製造・物流の側面から「敷地の7割がロジスティックス、PODを中核に据える。イノベーションというほどではなく、流通改革という意識」と話す。
一方、文化コンプレックスの方は「『行動する文化』を表現する街にしたい」と話す。併設される図書館について、「いつまでも図書館といがみ合っていてはいけない。出版者や著者に対価を還流できるモデル、そんなモデルを示したい」という。
「生やさしいことではないから、余生を賭けて挑戦したい」などと話し、関係者の協力を呼び掛けて講演を終えた。
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