コスプレ、特撮、同人……オタクの実態を描いたマンガ10選(2/2 ページ)
夏コミ前にオタクたちが主人公のマンガを集めてみました。オタク文化に興味はあるけれど薄くしか知らない、という人のための用語集つきです。
オタク生活の楽しみ方
オタクに生まれたからには、めいっぱい楽しみたい! ということで、オタクたちの日常生活を描いたマンガをご紹介します。あるある! と共感するエピソードもあれば、いやいや、そこまでは……と笑ってしまうエピソードもあり。魅力的なキャラクターが満載の3作品をお楽しみください。
パリジェンヌのオタク的日常? 『腐らんす日記』
『腐らんす日記』 大清水さち・ヤス/講談社
花の都・パリを舞台に、日本のMANGAが大好きなフランス少女4人組が、おうちでひたすらオタトーク! 天然少女のモニーク、メガネっ子のトリシア、お嬢様のクロエ、原書まで読んでいる本気オタクのアメリなど、個性豊かな女の子たちのゆるふわOTAKU生活をご堪能あれ!
『じょしらく』で、女子落語家たちの楽屋ガールズトークを描いたヤス先生が、作画を手がける本作。可愛い女の子たちがわちゃわちゃするノリは同じですが、今回の舞台はフランスのパリ。登場する女の子たちは全員フランス人のオタクという設定。ただし、やってることは日本のオタクと変わりません。
好きなキャラのキャラ弁(サンドイッチ)を作ったり、エクレアを巻物代わりに口に咥えてニンジャの真似をしたりと、バカバカしくも、「好き」を一生懸命に追いかけている女の子たちの姿に、思わずにっこり。
一部、実際のマンガ作品が登場するのも本作の特徴です。第1話は『進撃の巨人』ということで、新刊を読み終わった瞬間、クロワッサンを食らう巨人へと変貌するモニーク。他のメンバーもノリノリで「母さぁーん」と声をあげたりと、見ているだけで楽しそう! 『進撃の巨人』ファンならニヤリとするであろう、サシャの芋盗み食いの名シーンも、しっかりパロディーにして再現しています。
女子が複数集まれば、どのキャラが好きかのトークに花が咲くのは当然ですが、時には推しキャラを巡って一触即発の空気になることも。とはいえ、そこは仲良し4人組。すぐに元のゆるゆるした雰囲気に戻ります。
海外のOTAKUブームが盛り上がりを見せる今、モニークみたいな外国人の女の子たちと、国境を超えた萌えトークが出来る日も近いかも?
大学オタクサークルの青春白書! 『げんしけん』
『げんしけん』 木尾士目/講談社
アニメ・漫画などのオタク文化を研究する大学サークル「現代視覚文化研究会」=げんしけん。そのげんしけんを舞台に、オタクたちの日常をリアルに描き出した作品。現在、第二部(二代目)が連載中ですが、初代・二代目ともにアニメ化されている大人気作品です。
本作の魅力は、オタクたちの日常がいきいきとコミカルに描かれていることですが、登場人物の多彩さ、キャラ立ちの巧みさも人気の理由となっています。大学入学と同時にオタデビューを遂げた主人公・笹原、笑顔の素敵な美青年だけど、誰よりもディープなゲームオタクである高坂、二次元にしか興味を示さない典型的な男オタクの斑目、巨乳のコスプレイヤーでオヤジフェチの大野さん、過去のトラウマが理由でオタク嫌いになってしまった腐女子・荻上さん、高坂の付き添いだったはずが、不本意ながら入部してしまった春日部さんなど、個性的なキャラが盛りだくさん。
大野さんの名言である
ホモが嫌いな女子なんかいません!!!!!
は、見聞きしたことがある方も多いのでは?
また、唯一の一般人である春日部さんと、部員たちの交流もまた、本作を彩るスパイスとなっています。エロゲ※11 や、18禁同人誌にドン引きし、部員たちの趣味を理解できないと公言しつつも、春日部さんは決して彼らを頭から否定しようとはしません。彼氏が部員だからという理由で、げんしけんに入り浸っている春日部さんですが、次第に部員たちに染められていく姿は可愛らしく、廃部の危機と聞いて大学の自治委員会に乗り込むなど、漢気(女ですが)あふれる姿に、胸キュンする人も多いのでは。
個性豊かな部員たちですが、ともに行動していく中で、時に悩み、葛藤しながらも仲間としての絆を深めていく……そんな青春群像劇としても楽しめる作品。オタクの生態を知る入門書としてもどうぞ。
追っかけ女子の「あるある」が満載! 『2DK』
『2DK』 竹内佐千子/講談社
パティシエでしっかりものの「こむぎ」と、クリエイターでフリーダムな「きなり」。ルームシェアをすることになった2人の共通点は、“若手イケメン俳優好き”だということ。ミュージカルに特撮、舞台にBL映画と、毎日がトキメキに満ちあふれた2人のリアル・追っかけコメディ。
テニミュ※12 などのミュージカルや舞台をきっかけに、お気に入り俳優を追いかけた経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか? この作品の2人もまさにそう。よく「生モノ※13 萌えは忙しい」と言われますが、こむぎ・きなりの2人を見ていると、さもありなん……とうなずいてしまいます。一人二人を追いかける分には平気でも、数十人と膨らんだターゲットを追いかけるのはなかなかに大変。それでも、新人俳優チェックはやめられない! のが、オタクの性(さが)というもの。
実際の作品名や俳優名がポンポンと出てくるのも、本作の特徴。若手俳優好きの方なら、リアルすぎる2人の言動に、ニヤリとなること間違いなしです。また、オタク同士の同居ものとしても興味深く、ルームシェアに至るまでの過程や、喧嘩のあとの仲直り方法など、思わずくすりと笑ってしまう場面も。
本作のほか、竹内佐千子先生の「追っかけ」をテーマにしたエッセイ『おっかけ!』や、ゲイや性同一性障害の人たちとの赤裸々トークをまとめた対談本『四巨頭会談 男好きの男と女好きの女と女だった男と男だった女』などもオススメです。
同人活動の光と闇
単なる趣味と呼ぶにはあまりにも深い、「同人活動」。何かを創造するという意味では、プロとアマに違いはありません。楽しいこともあれば、苦しいこともたくさん。ここでは、そんな同人活動にスポットを当てた3作品をご紹介します。
同人やめますか、それとも……? 『腐女子になると、人生こうなる!〜底〜』
『腐女子になると、人生こうなる!〜底〜』 御手洗直子/一迅社
『31歳BL漫画家が婚活するとこうなる』で、腐女子の婚活を描いて話題になった、御手洗直子先生のオタクすぎる青春白書。同人と出会ってしまったせいで、人生が180度変わってしまった主人公・ソノミ。フィクションともノンフィクションともつかぬ自虐ギャグに、抱腹絶倒必至です。
勉強もスポーツもできる、普通の明るい女子だったソノミ。彼女を変えたのは「同人」という魔物だった……! というわけで、のっけからキてます。期末試験の前日に、オンリー※14 に参加して深夜バスで帰宅するソノミ。当然、勉強など何もやっておらず、学年最低点を取るなど、順調に同人クズの道を歩んでいきます。
ソノミほど極端な例は、なかなかないと思いますが、少ない小遣いの中で、いかに薄い本※15 をたくさん手に入れるか戦略を立てたり、原稿合宿と銘打って集まったものの、萌え話に終始して何も進まなかったり、好きな同人作家さんにキモい長さのメールを送りつけたりと、同人経験のある方なら誰もが頷いてしまうようなエピソードが盛りだくさん。
舞台設定は少し前(2004年ごろ)なので、当時を懐かしむも良し、オタクはいつの時代も変わらねえな〜と共感するも良し。読んでいるうちに、ソノミが他人とは思えなくなる、かも?
同人サクセスストーリー! 『ドージンワーク』
『ドージンワーク』 ヒロユキ / 芳文社
アニメにもなった本作は、同人界を舞台にした4コママンガです。主人公・長菜なじみは、同級生・露理の誘いで同人誌即売会に参加する。そこで再会した幼馴染・ジャスティス(超大手※16 の同人作家)に影響され、金儲けの手段として同人作家を目指し始める。
4コマということで、さくさく読めるこの作品。エロスと下ネタ満載にも関わらず、登場人物があっけらかんとして嫌味がないせいか、いっそ清々しさまで感じられるほど。
登場人物全員がキャラ立ちしているのですが、特にジャスティスがいい味を出しています。紳士的な態度で、とんでもなく変態な言動を繰り返す男・ジャスティス。整った容姿とのギャップもおかしく、人気ナンバーワンというのも頷けます。
金儲けのために同人活動を始めたなじみ。はじめは目も当てられないほど下手くそでしたが、部数が伸びるにつれ、本気で「売れる」方法を模索するようになります。調子に乗って1000部も刷っては余りまくったり、羞恥心を捨てた結果、イベント会場で痴女レベルの言動をしてしまったりと、失敗を重ねていくなじみですが、それでも彼女は描くことをやめません。
勢いのあるギャグ描写に爆笑するも良し、同人作家の成長記として楽しむも良し、の一粒で二度美味しい作品です。
オタクのダークサイドをえぐり出す 『ヨイコノミライ [完全版]』
『ヨイコノミライ [完全版]』 きづきあきら/小学館
日々オタク話をするだけのゆるい集まりである「漫画研究会」。部員の井之上は漫画は描けないものの、よい漫画家を育てたいという夢を持っている。だが、青木杏という一人の少女が介入することで、馴れ合っていた部員たちの関係が崩壊していく……。オタクのダークサイドを抉る問題作とも呼べる作品です。
批評家きどりの天原や、根拠のない自信にすがりつく夕子、不満を心に溜め込んでリスカを繰り返す桂坂、努力もせずにただ己の才能を信じている平松……オタクの嫌な面をとことん描き出したストーリーに、ダメージを受ける読者多数! な本作。コミュニケーション能力の低さや、思い込みの激しさ、自己顕示欲や自己承認欲求の強さ……。オタクにありがちな負の性質を盛り込んだキャラクターたちの言動は、あまりに辛く、痛々しく、読んでいるこちらの精神力をゴリゴリと削っていきます。
下に見ていた友人の画力がどんどん上達していくことで、焦燥や嫉妬を露わにする平松の心理描写はまさにこの作品の真骨頂。このエピソードはSNSなどで話題になったので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
そんな彼らの内側へ巧みに侵入し、引っ掻き回していく美少女・杏。ある意味、創作することの苦しみをもっともよく知る彼女は、脳天気な部員たちの言動が許せません。
こんな…ゴミみたいな…ただの「消費者」を、モノを創る人間に出来ると信じてるなんて……おめでたい人…
部員たちに漫画を描かせようと働きかける井之上を見て、杏がつぶやくせりふです。
彼女の暗躍により、ある者は取り返しのつかない場所へ堕ちていき、ある者は痛みの先の救いを得ます。残酷ですが、すべては「彼ら自身」が導いたことでもあります。現実を確かに見据える勇気を持つ者だけが前に進めるのだと、この作品は告げています。
暗黒版『げんしけん』とも言える本作。痛くて苦しい読書体験ですが、読み終えた後は、きっとあなたの心に何かを残すはず。
まとめ
いかがでしたか? 「オタク」と一口に言っても、アニメ、マンガ、ゲーム、特撮と、さまざまなジャンルが存在します。また、批評・分析を専門とする人もいれば、コレクションする人、創作する人、コスプレをする人など、関わり方もそれぞれ異なります。
ですが、「好き」をひたすら追求しているという点ではみな同じ。そんな熱いオタクたちのマンガ、ぜひ手にとってみてください。
付録:いまさら聞けない? オタク用語の基礎知識
※1 コミケ:言わずと知れた「コミックマーケット」の略称。同人誌即売会としては最大規模。夏冬の2回開催され、サークル数は3万5000、来場者数は50万を超える巨大イベントとなっている。経済効果は180億円とも言われ、非オタク市場からも注目されている。
※2 萌え:特定のキャラや、キャラ同士の関係などを目にしたときに感じる、心が浮き立つような心情を表現したもの。恋愛感情と似ているが、対象キャラとの関係に自分自身を介在させたいという欲求が必ずしもあるわけではない(この点が、一般人に理解されにくい部分である)。
※3 pixiv:ピクシブ株式会社が運営する会員制イラスト投稿コミュニティーサイト。イラストだけでなく、小説も投稿することができる。ユーザー数1000万人を超える巨大SNSであり、pixiv発のイラストレーターや漫画家なども多く輩出している。
※4 腐女子:男同士の恋愛(いわゆるBL、ボーイズラブ)を愛好する女子のこと。同様の男性のことは「腐男子」と呼ばれる。
※5 擬態:腐女子やオタクだとバレないよう、一般人として振る舞うこと。マンガやアニメの話題が出ても知らないフリをする、キャラグッズは目につかないところに隠し持つ、おしゃれやメイクの手を抜かない、一般人の興味を持ちそうな話題を用意しておく、など内容はさまざま。完璧な擬態を行っているにも関わらず、察知能力の高いオタクに見破られることもままある。
※6 サークル:同人サークルのこと。同人誌や同人ゲームなどを制作する目的で結成された団体を表す。複数人で結成している場合もあるが、個人(一人)サークルも多い。
※7 コスプレイヤー:コスプレをする人。レイヤーとも略される。昨今では、コミケなどのイベント会場だけでなく、スタジオなどを借りて本格的なコスプレ写真を撮るコスプレイヤーも多く、コスプレ写真を収めたDVDや、フルカラーのコス写真集を売っているコスプレサークルなども存在する。
※8 同人作家:同人誌を描(書)いて売っている人。アマチュアがほとんどだが、プロの漫画家も混じっている。アニメやマンガの二次創作をメインに活動する者が多いものの、COMITIA(オリジナルの創作物に限定した同人誌即売会)などのイベントで作品を発表し、そのままデビューする作家も増えている。
※9 オタバレ:オタクだということが、まわりの人間にバレること。世間の目が和らいできたとはいえ、まだまだオタクに対する偏見や、好奇の視線はなくなってはいない。無用な面倒を避けるため、オタク趣味を隠す人は多く、オタバレを極端に恐れる者も少なくない。
※10 特撮ヒーローもの:「スーパー戦隊シリーズ」と、「仮面ライダーシリーズ」が放映される日曜の朝の時間は「スーパーヒーロータイム」と呼ばれている。単に「ニチアサ」と呼ぶ場合もある。一見、子ども向けと思われがちな両シリーズだが、想像以上に重い設定や、作りこまれた脚本に唸らされることも多い。
※11 エロゲ:18禁PCゲームのこと。家庭用ゲーム機では18禁ゲームは扱えないため、移植される場合は、そういったシーンはカットになるか、別の表現に変更される。「Fate/stay night」など、エロゲからアニメ化されて人気を博した作品も多い。
※12 テニミュ:許斐剛先生の少年マンガ『テニスの王子様』を舞台化したミュージカル。当初は客足も芳しくなかったが、公演を重ねるにつれ、オークションでチケットが高騰するなど、社会現象とも言える盛り上がりを見せるようになった。人気俳優を多く排出し、若手の登竜門とも言われている。
※13 生モノ:アニメ・マンガなどのような二次元ではなく、現実の俳優やタレント、アーティストなどのこと。肖像権の侵害など、デリケートな事象が絡むため、同人などで取り扱う場合は細心の注意が払われる。アニメの実写化などは、2.5次元と呼ばれることも。
※14 オンリー:オンリーイベントの略。特定の作品やキャラクター、あるいはカップリング(恋愛関係にあるキャラ同士の組み合わせ)のみを取り扱った同人誌を頒布する即売会のこと。昨今では、企業主体で開催されるものが多いが、昔は個人主催のものがほとんどだった。
※15 薄い本:同人誌の隠語。「薄くて高い本」とも。一般的に同人誌は商業誌に比べるとページ数が少なめである。小部数印刷のため、36ページで400〜500円など、商業誌に比べると値段が高い。
※16 大手:同人誌の頒布数が多いサークル=人気サークル。同人サークルの規模を表す用語としては、「外周」「壁」「大手」「誕席」「平スペ」「ピコ」などがある。
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