Gartner Column:第2回 20年間で1000倍向上したものとは?

【国内記事】 2001.06.11

 情報技術の進化のスピードは目覚ましい。20年前と比較してみれば,プロセッサ速度,ストレージ容量,ネットワーク帯域幅は1000倍以上に向上した――というような話をすると,そんな話は,もう聞き飽きたと言いたくなる人も多いだろう。かく言う筆者も,他人の講演がこのようなムーアの法則系の前置きで始まると,早く本題に入ってくれよと思ってしまう。しかし,ちょっとここで,あまり世の中の人が気付いていない1000倍に向上したもうひとつの要素について考えてみたいと思う。

 その要素とは,システムの接続性,つまり,つなぎやすさである。20年前を考えてみよう。当時,異なるメーカーのコンピュータを接続するというのはきわめて大変なことだった。たとえば,IBMのメインフレームと富士通のメインフレーム間でリアルタイムでデータ交換したいという要求があったとしよう。もちろん,富士通はIBMの独自ネットワーク・プロトコルであるSNAは使いたがらないし,逆も真である。そうなると,仕様しか存在しないOSIの機能を実装するか,まったく新しい第三の独自プロトコルを設計して実装せざるを得なくなる。これは,接続テストを完了するだけでも,最低,エンジニア10人が半年を要するようなプロジェクトになるだろう。今,同じことを行なおうとしたらどうだろうか? 両コンピュータがすでにインターネットにつながっているのであれば,接続作業は半日もあれば済むだろう。20年前に60人月を要していた作業が今や0.5人日で終了するのだ。これは,1000倍以上の向上である。

 今や,世界中の企業システムがインターネットという同じネットワークにつながり,IPという同じネットワーク・プロトコルを話すことで,「つなごうとさえ思えばすぐでもつながる状態」になっている。さらには,IPv6の普及により,世界中の電子機器が同様の状態になる日も間近に迫っている。考えてみればこれはすごいことであり,1000倍どころではない飛躍的向上が達成されたと言えるだろう。しかし,この進化を100%有効に活用できているかというと疑問だ。もちろん,インターネットの普及のスピードはめざましいが,その使用法の大部分は,依然として,人がWebブラウザを介してサーバにアクセスするためであり,企業のシステム同士を有機的に統合するという領域では未開拓の部分が多い。B2Bの電子商取引も普及し始めているが,実際には,その大部分はインターネットEDI,つまり,従来の1対1の固定的データ交換を単にインターネット上で行なっているだけの形態である。また,インターネットの特性を活かしていると言われるe-マーケットプレースにしても,実際には,人間がWebブラウザを介してサーバにアクセスすることで企業間取引を行なっている場合がほとんどである。言い換えると,インターネットは,「情報アクセスの媒体」としてはかなりの進化を遂げたが,「ビジネス統合の媒体」として見ればまだまだなのである。

 なぜ,このような話をしたのかというと,この接続性の飛躍的向上と現実とのギャップを埋める役割をWebサービスが果たすことになると予測しているからだ。Webサービスの可能性は,前回述べた単純性,XMLによる自己記述性,標準としての普及に加えて,そのダイナミック性にある。ここで言うダイナミック性とは,単に固定的な通信経路として使用されるだけではなく,その時点で最も適切な相手先を探し出してくれ,その相手先に合わせた適切なやり取りを行なってくれる役割も担うことだ。これは,SOAP(Simple Object Access Protocol)に加えて,WSDL(Web Services Description Language)とUDDI(Universal Description,Discovery and Integration)という関連標準を使用することで実現される。WSDL(「ウィズデル」と読むのが通らしい)は,Webサービスのインターフェース情報を記述するための言語であり,分散オブジェクトの用語で言えばIDL(Interface Definition Language)に相当する。UDDI(最後のIを「インタフェース」と思っている人が多いので注意)は,WSDLで定義した記述情報を保管するディレクトリサービスのような存在である。ディレクトリサービスやレジストリに保管された位置情報を検索することで,任意の場所にあるコンポーネントを呼び出せるという分散オブジェクトの基本的考え方は,Webサービスでも同様である。もう少しわかりやすいたとえをすれば,人がサーチエンジンで目的とするWebサイトを検索し,最も気に入ったサイトにアクセスするという手順をシステム的に行なっているようなものである。

 SOAP,WSDL,UDDIという技術要素を組み合わせることで,世界中のコンピュータの多対多接続を実現するインターネットの特性がフルに活用されるようになる。ガートナーでは,このようなインターネット上で展開される新しいコンピューティング形態を,従来の全社的コンピューティングである「エンタープライズ・クラス・コンピューティング」を越える存在という意味で,「グローバル・クラス・コンピューティング」と呼んでいる。次回は,このグローバル・クラス・コンピューティングが実現された時の,インターネット・ビジネスの姿がどのようになるのかを考えてみたいと思う。

[栗原潔 日本ガートナーグループ]