Gartner Column:第7回 ベンダーのWebサービス・レースは始まったばかり
| 【国内記事】 | 2001.07.16 |
今回は,IBM,サン・マイクロシステムズ,ヒューレット・パッカード(HP),オラクルという主要ベンダーのWebサービス戦略について分析しよう。実は,Webサービスを支えるSOAP,UDDIなどのテクノロジのサポートだけであれば,既にWebアプリケーション・サーバ製品を擁しているベンダーにとっては,さほど難しいことではない。真に重要なのはWebサービスが作り出す新たなエコシステムにおいて,顧客にどのような価値を提供できるかだ。その意味では,ベンダー間のレースはまだ1周目と言えるだろう。
IBMは,2001年5月に,WebSphere,DB2,LotusなどのミドルウェアにおいてWebサービスをサポートする包括的発表を行った。同社は,Webサービスにより実現される次世代の動的なインターネット・コンピューティングをダイナミックe-ビジネスと呼んでいる(第3回で述べたグローバル・クラス・コンピューティングに相当するビジョンと言ってよいだろう)。また,SOAPやUDDIの標準化活動においてもマイクロソフトとの緊密な協力を行っている。IBMのWebサービスに対する姿勢は,同社のJavaに対する姿勢に類似している。
つまり,あえてビジョンにおけるリーダー企業の二番手につきながら,製品やサービスの売り上げでしっかりと実をとろうとしているということだ。
IBMのソフトウェア戦略のこのような柔軟性を,何が何でも「アーキテクチャ」の主導権を取らなければ気がすまなかった過去のIBMと比較すると隔世の感がある。IBMは,マイクロソフトの世界とサンの世界,つまり,.NETの世界とJavaの世界の良いとこ取りをできる絶妙なポジションにある。
また,.NETにおいて,Webサービスの導入だけではなく,根本的なプログラミング・モデルの変革を行おうとしているマイクロソフトと比較して,より現実的なアプローチを取ろうとしているとも言える。メインフレームとの連携機能がまだ不足しているなどの課題はあるが,IBMは,Webサービスの世界でも,確実に重要プレーヤーとなっていくだろう。
サンは,今まで,ハードウェア企業に徹することで成長してきた。スコット・マクネリ氏が,2000年秋のガートナーのシンポジウムの基調インタビューで,「この世にソフトウェア産業などというものは存在しない。ソフトウェアはハードウェアのオプションである」とのちょっと極端な主張を展開し,翌日の基調インタビューに登場したスティーブ・バルマー氏をカリカリさせたこともある。しかし,それから半年も経たないうちに,サンは,新しいソフトウェア構想であるSun ONE(Open Network Environment)を発表し,ハードウェア・ベンダーからシステム・ベンダーへの脱皮宣言を行った。
ちなみに,ONEの名称は,1996年にネットスケープ社が打ち出した分散コンピューティング構想と名前が同じだ。iPlanetの担当者がネットスケープで果たせなかった夢を託そうとしたのか,単なる偶然なのか,Netscape ONEはなかったことになっているのか,残念ながら真意を聞き出す機会を得られていない。
Sun ONEの技術的な詳細は未だ明確になっていないが,iPlanetのミドルウェアおよびフォルテ社から買収した開発ツールによるWebサービスのサポートに重点がおかれている。ソフトウェア・インフラ系において,サンの過去の成績は決して良好とは言えないが,マーケティングのうまさと,経営のスピードでは実績がある。サンのWebサービス・エコシステムでの成功には,iPlanetの技術の活用とBEAなどのパートナーとの関係の適切なバランスが課題のひとつとなるだろう。
HPは,Webサービスのビジョンにおける先駆者である。筆者が,HPのマネージメントからe-サービス構想に関する話を最初に聞いたのは1999年春のことだったと思うが,その時は何か新しいものが起こりつつあるという予感に興奮を覚えたものだ。
しかし,残念なことに,HPはこのビジョンの先進性を市場でのリーダーシップにうまく転換できていないようだ。その理由としては,e-サービスの有効性を市場にうまく説明できなかったこと(当時はIBMのe-ビジネスの二番煎じではないかと思われることもあったようだ),自社技術であるe-speakにこだわりすぎたこと,そしてソフトウェア基盤のパートナーとしてBEAに依存する体制からブルーストーン社の買収で自社調達する体制へと方向性を大きく変えたことなどがあるだろう。
HPの基幹系システムでの経験は,Webサービス向けプラットフォームとしての優位性となるだろう。サンと同様,HPにも自社とパートナーのソフトウェア基盤間のバランスを取るという課題がある。
オラクルは,Webサービスのサポートについて長らく沈黙を守ってきたが,2000年12月のダイナミック・サービスの発表により,この市場への事実上の参入を果たした。同社は,サンと共に,「software as a service」ビジョンの先駆者であり,アプリケーションをWebブラウザ経由で提供するという従来型ASPの世界では先行している。当然,自社のアプリケーション・スイートの機能の一部をWebサービスとして提供する戦略も,同社の視野には入っているだろう。
またオラクルは,業務アプリケーションを製品ラインに擁しているという点でユニークな位置にある。つまり,Webサービスの仕組みだけではなく,中身も提供できる立場にあるわけだ。しかし,前回述べたように,マイクロソフトもグレート・プレーンズ社の買収により同様のポジションにつこうとしている。業務アプリケーション分野でオラクルがマイクロソフトと激突するという数年前には予想もできなかたようなシナリオも十分ありえるだろう。
ここで挙げた以外にもBEA,シルバーライニング,ボーランド,そして,富士通,日立などの国内ベンダーも含め,Webサービスの基本テクノロジーをサポートし始めたベンダーは数多いが,紙面の都合上,別の機会に分析することとしたい。
次回は,今世間で行われているP2Pに関する議論について,ちょっと苦言を呈させていただきたい。
[栗原潔 ,ガートナージャパン]
