Gartner Column:第17回 緊張のフロリダでフィオリナが語ったこと
| 【国内記事】 | 2001.10.11 |
出張自粛勧告は出ていたが,「at your own risk」ということで,フロリダ州オーランドのディズニーワールドで開催中のガートナーシンポジウムに来てしまった。
ベンダー中立のカンファレンスとしては全米最大規模のガートナーシンポジウムは,米国のITプロフェッショナルの多くから,最も重要とみなされている。実際,1週間で約3000ドルという決して安くない料金にもかかわらず,例年1万人を超える参加者がこのイベントのためにディズニーワールドを訪れている。筆者も,このイベントは,その後1年間のリサーチの重要なヒントを得る上で不可欠なのでほぼ毎年参加しており,今回も個人的リスクを犯してでも参加したかったのだ。
そう考えるのは米国のITプロフェッショナルも同じであり,例年よりやや参加者は少ないものの,イベント自身は盛況だ(今回は,特別にWebによるPay-Per-Viewプログラムも設定されたことから,実質的な参加者数はさほど変わらないようだ)。
空港ではショットガンを(むき出しで)持った兵士が警備をし,至る所でIDをチェックされる。ガートナーも外部の警備会社を使用し,大幅に警備を強化している。しかし,緊張はあるが,人々の生活は平常通りに進んでいるようだ。ビジネスをいつも通りに遂行すること,それこそがテロ行為に対してできる最大の反撃と考えているからだ。
昼食の時に隣に座った一人の参加者の「I am concerned, but I'm not scared」(懸念はあるが,恐れてはいない)という言葉が,一般的米国市民の心情を表していると思う。
最初のプログラムであるガートナーアナリストによる基調パネルでは予定を変更して,災害回復についての議論が行われた。当コラムの第14回で書いたような,どちらかと言えば地味な内容だが,当然のことながら,聴衆は熱心に聞き入っている。
「災害回復と変更管理をシンクロさせ,システム基盤に大きな変更があった時には,必ず災害回復の訓練を行うべき」と言ったような実践的アドバイスに関する議論が展開された。
次のゲスト・パネルは,イデオ,オンスターズ,リコー・イノベーション による「将来のテクノロジー」に関するパネルである。途中で紹介されたテレポーテックによる,やたら臨場感のあるテレビ会議システムはインパクトがあった。また,リコー・イノベーションの代表が壇上で着用していたストレスレベルを表示するウェアラブルコンピュータも会場の喝采を浴びていた。
実際,右手を机の角にぶつけてストレスを高めると左手につけている手袋のライトが明るくなるのだ。
手前味噌になるが,単にその時々の旬のトピックだけではなく,泥臭い現場レベルの話から,将来の先進的技術まで広範囲のITをカバーすることがガートナーの価値であり,多くのITプロフェッショナルからの支持を得ている理由なのだ。
さて,翌日火曜日,最も注目されるセッションであるHP会長兼CEOのカーリー・フィオリナの基調インタビューだ。基調インタビューの前に,前日に撮影されていたシンポジウム参加者からの質問を撮ったビデオが流される(ここ数年,基調インタビューは,すべてこのような構成になっている)。
もちろん,この内容が事前に検閲されることはない。大手ITベンダーのCEOたるもの,ユーザーのあらゆる質問に対して,事前の準備なしで何らかの回答できることを求められているわけだ。予測された通り,質問の多くが既存資産の保護に対する懸念を表すものであった。
改めて言うまでもないが,米国大手ITベンダーのトップ・マネージメントのスピーチのうまさにはいつも感服させられる。中でも,フィオリナは,言葉を選びに選んだゆっくりとした話し方で,きわめて説得力がある。知らない人が見たら酔っぱらっているとしか思えないハイテンションのスティーブ・バルマーや,常に問題発言ぎりぎりのスコット・マクニーリとは対照的な正統的プレゼンテーション能力である。
フィオリナは,最初に,今後の製品計画については,コンパックとの合併が審議中の状況で,具体的な製品計画を話すことは法律的に許されていないと前置きした上で,既にプランは確定しつつあり,当局の承認そして株主の承認という2つの過程を経て合併が完了した1カ月後に,具体的な製品戦略を発表すると約束した。もちろん,既存の投資保護と移行プランを含めてである。
彼女の「it isn't about a deal; it isn't about a transaction; it's about creating a stronger company」(これは,合併や取引の話ではありません,いかにより強い企業を作るという話なのです)という発言はインパクトがあったと思う。また,買収が完了するまでの間はコンパックと積極的に競合していく(正確には,独禁法上の観点から競合することを求められている)とも語った。
次に,新生HPのビジョンとして,ベストな製品を提供し,ユーザー企業にその統合を任せるタイプのベンダー(彼女は具体的には述べなかったが,サン,デル,EMCのような企業のことだろう)と,すべての統合と運用作業を引き受けるタイプの企業(つまり,IBMグローバルサービスやEDSなどのフル・アウトソーサーである)の間の第3の選択肢をCIOに与えることだと述べた。
つまり,業界標準のアーキテクチャ(具体的には,Itanium Processor Family)を中心にしたオープンかつ統合が容易な構成要素を提供していくということだ。
ビジョンとしては素晴らしい,と言うよりも,新生HPが採り得る唯一の道だろう。結局,このビジョンを如何に思い切って実行に移せるかという点が重要だ。今のところは,「フィオリナにはそれが可能である」と聴衆に印象付けるられたと思えたとだけ述べておこう。
最後に,HPに関するここだけの情報を述べておく。ストレージネットワークのセッションで,HPのハイエンドストレージの今後の戦略について質問を受けたガートナーリサーチディレクターのニック・アレンは,「現状の日立からのテクノロジー供給に頼らない自社独自のハイエンド製品を開発する可能性も十分にある」と述べた。ガートナーの公式予測ではなく,あくまでもひとりのアナリストとしての個人的推測であるが,今後のストレージ市場からはサーバ市場以上に目が離せないのは確かである。
[栗原潔,ガートナージャパン]
