Gartner Column:第18回 サンはメインフレームにあこがれている?

【国内記事】 2001.10.15

 10月4日のSun Fire 15Kの記者発表会において,サンはメインフレームという言葉を何回口にしただろうか。ハイエンドUNIXサーバがメインフレームを凌駕している点は多いが,いまだに越えられない壁があることは確かだ。

 今回は,予定ではガートナーシンポジウムに続いてディズニーワールドで開催されているNCRのユーザーカンファレンスPARTNERSについて書くつもりだったが,米国のテロ状況の悪化により帰国してしまった(PARTNERのイベント自体は開催されている)。正直言って,米国のデータウェアハウス先進ユーザー事例は,かなり価値ある情報なので残念至極である。ということで,今回は,サンのハイエンドUNIXサーバとメインフレーム(ここでは,主にIBMのS/390,eServer zSeries系のマシンのことを指す)の関係について書いてみたい。

 Sun Fire 15Kの発表会では,「Sun Fire 15Kの性能はメインフレームの2倍以上」「メインフレームを使い続けていては企業は成長できない」「UNIXもRAS(信頼性,可用性,サービス性)においてもメインフレームとのギャップを縮めている」などの発言が続いた。UNIX専業ベンダーとしては当然の発言だが,最後の発言に注目してもらいたい。

 サンは,少なくともRASの点では,メインフレームがUNIXサーバの一歩先を行っていることを認めているわけである。

 このサンの認識は正しい。そして,このメインフレームの長所を冷静に認識しているということは,サンがメインフレームの牙城に真剣に乗り込もうとしていることの表れと言ってよいだろう。

 覚えておられる方も多いと思うが,2000年3月,メインフレームの障害により,約3時間のオンラインシステムのダウンを経験した某地方銀行は,障害の原因,復旧処理の問題点,関係者の減給処分などを含めた詳細な文書をWeb上に公開した(現時点では公開されていない)。

 この事件が,UNIXコミュニティーにもたらした衝撃は相当なものであったと推定され,私宛にメールを送って下さった方もいたくらいだ。「ここまでやらなければいけないのか?」がほとんどの方の反応だったが,「ここまでやらなければいけない」のがメインフレームコンピューティングの世界なのだ。

 敢えて下世話な言い方をすれば,「5年間無停止で運用してきても,3時間ダウンしてしまえば責任者が処分されてしまうような世界」なのである。そして,メインフレームはこのような世界で必要とされるRASを長年の間提供してきたのだ。

 サンの言う通りUNIXサーバのRAS機能も年々向上してきているが,依然としてメインフレームとの格差は存在する。ガートナーの調査でも,単独構成のメインフレームの平均的可用性は,クラスタ構成のUNIXサーバを凌駕している。

 テクノロジー面でもメインフレームはRASに力を注いだ設計が採られている。例えば,ハードウェアはCPU本体も含めてほとんどの部分が二重化されているし,OSコードの大部分が可用性の向上のために割かれている。しかし何よりも重要なのは,メインフレームが日々進化している一方で,その基本技術がかなり「枯れて」いることだ。

 エンジニアの方ならご存じのように,新しいテクノロジーの信頼性は一般に低い。現場においてさまざまな障害を経験し,修復されていくことで,システムの信頼性は向上していく。信頼性を一朝一夕に向上することはできないのだ。

 また,メインフレームベンダーのサポート体制も重要な要素だ。障害の発生を事前に検知した予防的保守,障害情報の共有など,メインフレームベンダーが保守に関して持つノウハウは強力である。Sun Fire 15Kの発表会で,エンタープライズサービス責任者の中西常務取締役が「メインフレームの世界にどっぷり浸かった男」(ゆえに信頼できます)と紹介されたのも,サンがメインフレーム関連サービスのノウハウが如何に重要であるかを認識している表れだろう。

 性能面ではどうだろうか。単一のアプリケーションだけを動かすのであれば,サンが主張するように,ハインエンドUNIXサーバの性能はメインフレームを上回っているだろう。しかし,現実環境においては,オンライン,バッチなど,さまざまなタイプの処理を一台のマシンで処理する混合ワークロード処理が必要となる。

 このような環境で資源を有効に配分してアプリケーションレベルの性能目標を達成させるワークロード管理能力は,まさにメインフレームも設計思想そのものであり,最も進んでいる点でもある。例えば,PCサーバなどで,処理能力には十分余裕があるはずなのに,バッチを稼働したとたんにオンラインの応答時間が耐えられないほどに悪化してしまうような経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。UNIXベンダーも,ワークロード管理機能を自社UNIXに追加しているが,メインフレームが一歩先を行っているのは確かだ。

 では,メインフレームが万能のサーバかというとそうでもない。過去よりも差は狭まったとは言え,メインフレームのコストはやはり割高である。ハードの価格性能比差はかなり縮まってきているのだが,依然としてメインフレーム上で稼働するソフトのコストは高く,大型の構成であれば軽く数億円のレベルになる。ハードとソフトのコストがほぼ同額になってしまうことも珍しくない。

 また,ソフトの不足も問題である。IBMはメインフレーム上へのWeb系やエンタープライズアプリケーションの移植を推進しているが,ソフトの品ぞろえの点では,主流UNIXサーバやWindows 2000/NTサーバとは大きな格差がある。このようなメインフレームのソフトウェア上の課題はそう簡単には解消されないだろう。なぜなら,ソフトのコストは,出荷台数が多く開発コストを多くのライセンスで回収できるOSが有利だからだ(その意味で,多くのソフトウェアベンダーがWindows NT/2000サーバを製品移植の最優先ターゲットとしていることは頷ける。)

 結局,メインフレームとUNIXサーバは,それぞれ長所短所はあるものの,互角に戦える状況になってきているのだ。メインフレームとUNIXサーバを全く別カテゴリーの製品として扱う必然性は少なくなってきている。実際,ガートナーでもSun Fire 15K,HP Superdome,IBM p690などのハイエンドUNIXサーバを「emerging mainframe」(新世代メインフレーム)と呼び始めているのである。

 メインフレームを検討中のユーザーは,当然ハイエンドUNIXサーバも検討対象にすべきであり,逆に,ハイエンドUNIXサーバを検討中のユーザーは,メインフレームを単に時代遅れとして排除するのではなく,冷静にUNIXの代替案として検討すべきと言えるだろう。

[栗原潔ガートナージャパン]