Gartner Column:第26回 Regatta対Starcat〜その3,それでもサン有利が揺るがない訳
| 【国内記事】 | 2001.12.10 |
IBMの強力な追い上げにもかかわらず,少なくとも2006年まで,サンはUNIXサーバ市場におけるリーダーの地位を維持できるとガートナーは予測する。それは,サンが自社を中心としたエコシステム構築において有利な位置にあるからだ。
前回に述べたように,IBMはRAS機能を武器にサーバハードウェア市場でもシェア獲得に極めてアグレッシブになっている。サービス,ソフトウェア,そして,特に半導体関連における基礎研究開発能力と製造能力を含めた総合力では,明らかにサンの上を行っているだろう。
しかし,それにも関わらず,UNIXサーバ市場におけるサンの優位は動かないとガートナーは予測している。それは,以下のような理由によるものだ。
第5回に述べたように,製品の市場での成功を決定するのは,技術的な優位性よりも,如何に適切なエコシステムを構築し,他社と共存共栄の関係を築けるかにある。
SPARC上のSolarisは既に確固たるエコシステムを構築できている。ほとんどのソフトウェアベンダーがSPARC上のSolarisとWindows 2000(および,その後継製品)を自社製品の移植先の最重要プラットフォームとしている(ベンダーによっては,このリストにLinuxが加わることもある)。また,リセラーやシステムインテグレーターにとっても,サン製品は圧倒的に人気のあるプラットフォームだ。
このような強力なエコシステムを構築できるのは,サンが基本的にハードウェア専業ベンダーであったことによる。別の言い方をすれば,サンは,「顧客と競合しない」ビジネスモデルを採用していることになる(ここで言う顧客は,いわゆるパートナーも含む)。デル,シスコ,EMCなど,今日のIT市場の特定領域でリーダーとなっているベンダーには,このように特定領域でのコアコンピタンスに集中することで,顧客と競合せずに,適切なエコシステムの構築を目指すタイプが多い。
IBMも,ソフトウェアベンダーからのサポートを強化をUNIXサーバにおける最重要戦略としているが,ハードウェアだけでなくサービスやインフラ系ソフトウェアにも注力する総合ベンダーであるIBMにとって,最適なエコシステムの構築にはサンよりも複雑な戦略が必要となる。
例えば,IBMとオラクルとの関係は微妙である。オラクルは,サーバビジネスのエコシステムを構築する上で必須のパートナーだが,その一方でDBMS市場ではIBMのDB2とOraleは激しく競合している。
IBMハードウェア上でオラクルDBMSを使用した事例やベンチマークを公開すれば,「DB2よりオラクル製品の方が優れている証拠だ」と言われてしまうし,逆に,DB2を使用した事例を売り込めば,「IBMは全部IBM製品で固めたがるオープン性のない会社だ」と言われてしまうかもしれない。DB2のマーケティング担当者はさぞかし頭が痛いことだろう。
IBMは,IT市場の多くの領域において重要プレーヤーであり続けるであろうが,それでも,サービスとメインフレーム以外の分野で,各市場領域のトップになるのは難しいだろう。
もちろん,サンにも課題はある。同社は,ハードウェア専業ベンダーからの脱却を図っている過程にあるからだ。ハードウェアの価格性能比向上に伴い,箱売りビジネスだけで必要な成長率を維持していくことは明らかに困難だ。第7回で述べたように,サンはサービス要員を増強し,Sun ONEソフトウェア戦略にも力を入れることで,ハードウェアベンダーからシステムベンダーへと成長しようとしている。
このような戦略シフトには微妙なバランス感覚が必要とされる。総合的ソリューションを提供できれば,顧客の満足度が高まり,収益機会も増えるが,その反面「顧客と競合する」リスクが増すからだ。
サンが自社の重要戦略のひとつとしている「Integratable Software Stack」(統合可能なソフトウェア階層)というモットーは,実は,元々は「Integrated Software Stack」であったものを変更したものである。「integrated」では,あたかもサンがあらゆるソフトウェアスタックを提供し,他社の介在を許さないようなイメージを与えてしまう。
そのためサンは,この「integratable」という言葉で,iPlanetを中心としたサン提供のソフトウェアスタックも使用できるし,例えばBEAなどの他社製品も使用できるというユーザーの選択の自由を示そうとしているのだ。
サンの戦略におけるバランス感覚とマーケティングのうまさ(某ガートナーアナリストの言葉を借りれば,「ネズミにネズミ取りを売れる」ほどである)には実績がある。サンは,おそらく,このビジネスモデルのシフトを乗り切り,適切なエコシステムの再構築を行うことができるだろう。
次回は製品の話から少し離れて,同時多発テロ後の米国のIT投資マインドの変化について述べてみようと思う。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]
