Gartner Column:第28回 「パーフェクト・ストーム」の2001年を振り返る
| 【国内記事】 | 2001.12.25 |
米国で開催されたGartner Symposiumの基調インタビューにおけるスコット・マクニーリ氏の言葉を借りるまでもなく,ほとんどのITベンダーにとって2001年は「パーフェクト・ストーム」だったろう。ITに対する楽観的過ぎた夢が打ち崩されてしまった今年を振り返ってみよう。
もうだいぶ前のことなので記憶にない方も多いと思うが,1月11日には,AOLとタイム・ワーナーの合併が承認され,世界最大のメディア企業が生まれた。これは,バーチャルの世界とリアルの世界の融合が必然的であることの表れだろう。また,ITバブルによる時価総額の増大をビジネス戦略に有効活用できた数少ない企業のひとつがAOLと言ってよいだろう。
2月16日には,デルが創業以来始めてのレイオフを発表した。この後,サンやEMCといった勝ち組みとみなされていたITベンダー,さらには,富士通,NEC,日立,東芝などの国産ベンダーも含めた多くのITベンダーがレイオフの発表を行なうことになる。
4月15日には,IBMがインフォミックスのDBMS事業の買収を行なう意向を発表した。これは,IBMがソフトウェアビジネスへの積極攻勢を強めていること,および,インフラ系のハード/ソフト市場では,数多くのベンダーが存在することが困難になっていくこと,もっとはっきり言ってしまえば,今後も勝ち組みと負け組みの二分化が進んでいくことを表している。
米ガートナーのCEOマイケル・フライシャーは,Gartner Symposiumの基調講演において今後3年間にITベンダーの50%が他社に吸収されているか,倒産していることになるという予測を発表した。つまり,HPとコンパックのケースが最後ではないということだ。個人的にも,この予測はかなりの確度で当たるのではと見ている。
5月29日には,インテルの最初の64ビットItaniumが出荷開始された。ご存知のように,Itaniumの性能は決してめざましいものではなく,64ビットアプリケーションの開発テスト用としての位置づけが大きい。インテルの64ビットプロセッサの真価が試されるのは2002年中盤のMckincley出荷開始以降のこととなるだろう。
6月20日には,大手ISPの米PSINetが事実上倒産した。その後,エクソダス,エキサイト・アット・ホームなどのインターネットインフラ系事業者の経営破綻が相次ぐ。以上の2つのトピックについては,スペースの都合もあるので,また,回を改めて述べていきたいと思う。
7月10日には,1999年6月に鳴り物入りで始まったインターネット日用雑貨販売業のウェブバンが経営破綻する。インターネットで商品を売れば,チャネル・コストを削減でき,収益を上げられるという幻想は崩壊した。とりわけ,食品雑貨のような,低価格で物流コストがかかる商品はネット販売には向いていないと思えるのだが,なぜ,この明らかな事実になぜ経営者や投資家たちは気がつかなかったのだろうか?
後になって冷静になって考えればとんでもないようなアイデアも現実的に思えてしまう。これは,テクノロジーのハイプ期に特有の現象だ。
さらに,この時期には,ガートナーおよび他の市場調査会社がPCの売り上げが初めて前年同四半期を下回ったことを発表した。少なくともハード市場においては,右肩上がりの神話が完全に崩れてしまったわけである。後のWindows XPの販売開始も,PCビジネス復活の起爆剤とはなり得なかった。これは,マイクロソフトが,ソフトウェアのライセンス料金に依存するビジネスからの方向転換を余儀なくされることも意味する。
8月28日には,ゲートウェイが事業を大幅縮小し,日本市場からも完全撤退してしまった。少し前までは,テレビCMにかなり力を入れていたにもかかわらずである。
9月4日,HPによるコンパックの買収意向の発表に,誰もが耳を疑った。これも,先に述べたインフラ系の市場では,多数のベンダーが存続できなくなっているという現象のひとつの表れだろう。
そして,ちょうど1週間後の9月11日に同時多発テロ。これは,既に冷え込んでいた企業のIT投資を,さらにもう一段階冷やし込むことになってしまった。結果論になるが,HPは,最悪のタイミングで合併意向を発表してしまったことになる。
10月には,司法省がマイクロソフトとの和解を行う。内容的には,マイクロソフト完全勝利と言ってよい内容である。米国政府も,これ以上,IT業界の景気を冷やす要因をひとつでも避けたいという意図があったのではないだろう。
そして,12月2日にまさかのエンロン経営破綻である。同社は,ITベンダーというわけではないが,そのネットワーク帯域幅取引のビジネスは,ガートナーを含む多くのコンサルティング企業からB2Bマーケットプレースの先進的事例として紹介されることが多かった。同社の倒産の原因は多額の簿外取引であり,B2Bビジネスの失敗自体ではないのだが,B2B自体の将来のイメージに暗雲を投げかける形になってしまったのは否めないだろう。
ここまで書いてきてますます気持ちが暗くなってしまった。少しでも,明るい話題はないのだろうか? 日本国内においてもブロードバンドの世帯普及率が約10%と増加してきた点はかなり明るい話題と言えるだろう。もちろん,ネットワークインフラが整っても,コンテンツが伴わなければ何の意味もない。しかし,同時にネットワークインフラが安価になることで,コンテンツビジネスの参入者が増えるということもある。一般的に,世帯普及率10%程度が,そのテクノロジーが拡大するか,ニッチで終わるかの境目と言われている。その意味では,今後,うまく需要と供給の相互作用が回り出してくれる可能性は高いと言えるだろう。
さて,次回では,2002年のIT業界がどのようなになるかを大胆予測してみたいと思う。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]
