Gartner Column:第38回 イーベイの日本撤退から学ぶべきこと
| 【国内記事】 | 2002.3.11 |
ちょっと前の話になるがイーベイの日本撤退には驚かされた。われわれはこの事件から何を学ぶことができるだろうか。
2001年度のイーベイ本社の業績は,売り上げが前年比74%増の7億4880万ドル,純利益が89%増の9150万ドルと絶好調だった。株価も高値安定。まさにB2C(正確に言えば,C2Cかもしれないが)のインターネットビジネスにおける数少ない勝ち組のひとつと言えるだろう。
同社は積極的に海外進出を強めており,韓国や台湾では大手のオークションサイトを買収している。日本では会員数が伸び悩み苦戦してはいたが,1月にオークションに加えて電子モールビジネスを展開し始めた矢先であった。それだけに,このタイミングでの撤退に驚いた人は多いのはないだろうか?
撤退の理由は,単に日本での事業展開に将来性なしと判断されたからだ。もう少し手を尽くしても……とは思うが,株主価値を重んじる米国企業ならではのドライな意思決定ではある。
「ネットワークの価値は接続数の二乗に比例する」とはイーサネットの発明者であるボブ・メトカルフが言い始めたいわゆるメトカルフの法則である。オークションのようなコミュニティサイトにおいてもこの法則は当てはまる。出品する立場から見れば入札する人数が多ければ多いほど良い(高い金額で落札される可能性が高くなる)わけだし,落札する立場から見れば出品数が多ければ多いほど良い(自分の欲しい商品が見つかる可能性が高い)のは当たり前だ。
昨年の夏時点で,ヤフージャパンとイーベイジャパンの会員数は約30倍以上の開きがあったそうなので(最終的にはそれ以上の格差があったと思うが),単純計算で言えばコミュニティとしての価値は900倍以上違っていたわけだ。
さらに,価値が低いコミュニティからは人が去り,価値の高いコミュニティへと移っていくから,いったん大差がついてしまうとそれを覆すのはきわめて困難だ。イーベイとしては,仮に日本市場の2番手,3番手のビッダーズや楽天オークションを買収できたとしても,ヤフーと対抗していくのは困難と判断したのではないだろうか?
例えば,世界最大のメディア企業にして最も価値が高いコミュニティを提供しているAOLにしても,日本ではニフティやBIGLOBEに対して苦戦しているのも同じような状況だろう。
それゆえ,コミュニティサイトを成功させるためには,よく言われる「first-movers advantage」,つまり先手必勝の戦略が何よりも重要になる。イーベイの日本進出はヤフーに遅れるところ5カ月だったが,この5カ月が取り返しのつかない失敗の原因となってしまっというわけだ。
また,ヤフージャパンが無料制で会員数を伸ばす中,イーベイジャパンは米国と同じ有料制に固執し,キャッチアップできる唯一の機会を逃してしまった。その後,2001年に無料制を採用したがあまりにも遅すぎた。既にコミュニティの価値で大きな差をつけられてしまったからだ。
一方,ヤフージャパンも有償化したが,その際の会員数の減少は一時的であり,現在では更なる成長を実現している。既にコミュニティの価値が確立していれば利用者は喜んで対価を支払うということだ。これは,ニフティやAOLなどのパソコン通信系の有料コミュニティサービスが,現在でもインターネットビジネスとして十分成立していることを見ても明らかだろう。
と,ここまで書いてきたような話は,インターネットビジネスを行っている人には常識的な話であり,イーベイの経営陣は十分理解していたはずだ。では,なぜ,適切な対応が取れなかったのか?
それは,イーベイが米国であまりにも成功しすぎたがゆえに,チャレンジャーとして戦うことに慣れていなかったためだろう。つまり,同社は,自らの成功体験の犠牲となってしまったわけだ。ガートナーのレポートにおいても,業績が悪化した企業の原因分析に,「victim of its own success」という表現が頻繁に登場する。
例えば,前述の有料制の問題にしても,ヤフージャパンが先行者,無償サービス,(日本国内における)知名度という点で圧倒的に有利な状況の中で,イーベイ側がさしたる策を採らなかったのは,米国ではヤフーが無料オークションを提供していながら,最初から有料制であったイーベイが勝利を収めたという成功体験から来た驕り以外の何者でもないだろう。
このような教訓は,成功の後に新規市場に進出しようとするあらゆる企業に当てはめられるだろう。例えば,iモードの海外展開を進めているNTTドコモなどだ。個人的には日本発のテクノロジーとして,iモードには成功してほしいと思っているが,そこで,最大の障害となるのは,ドコモ自身の日本での成功体験ではないかとも考えている。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]
