Gartner Column:第40回 情報の中立性という貴重な資源

【国内記事】 2002.3.25

 ご存知のように,米エンロンの破綻は米国の歴史ある会計監査法人であるアンダーセンの存在を危機に陥れようとしている。われわれは,この事件から何を学べるだろうか?

 会計監査法人は,絶対的な中立性を要求されるいわば裁判所のような存在である。しかし,エンロンのケースではアンダーセンのビジネスコンサルティング部門がエンロンと多額の契約を結んでいたために,不正経理に対する目が甘くなってしまったのではという疑惑がもたれている。

 本来,監査業務とコンサルティング業務をひとつの会社が行っていても,ひとつのクライアントに対して同時に両業務を提供しないというルールを遵守していれば,問題はなかったはずだなのだが……。

 これほど大きな話ではなくとも,このようないわゆる「利害の抵触」(conflict of interest)は,われわれの経済社会のいたるところに存在する。

 一般にアドバイスとして提供される情報の正当性を判断する際には,その情報の中立性を妨げる要素,つまり,「利害の抵触」が存在するリスクがないかを十分に検討すべきだ。

 多様な質の情報があふれている今日のインターネットにおいて中立的なアドバイスは貴重な資源である。ガートナーはこのような貴重な資源の提供をビジネスの根幹としている会社のひとつだ。

 ガートナーは企業の吸収合併を繰り返すことで成長してきた。市場調査会社(その最も重要なものがデータクエストである),コンサルティング会社,イベント会社などを買収してきているが,決して実装を行う会社,例えば,システムインテグレータを買収することはない。

 もし,システムの実装を行う業務が会社の一部となってしまえば,どうしてもその部門のビジネスにつながるような提言をアナリスト部門が行ってしまう(ないし,顧客にそのような疑惑を与えてしまう)リスクが発生する。そのような「利害の抵触」を徹底的に避けようとしているわけだ。

 実装部門を持たないからこそ,顧客に最適なシステムインテグレータの選定に関するアドバイスを中立的な立場で行えるし,不要不急の開発プロジェクトはやめるべきであるなどのアドバイスもできるわけだ。

 という説明をすると,読者の方からの批判が聞こえてきそうだ。ガートナーのクライアントの多くはITベンダーではないか,それらのベンダーとの利害の抵触の問題はないのかと。

 もちろん,営利企業として収益の最大化を目指す以上,ベンダーとの契約は維持せざるを得ない。しかし,ガートナー社内ではベンダー契約との利害の抵触を避けるべく,徹底したポリシーが貫かれている。少しでも特定のベンダー寄りだという疑惑をいったん持たれてしまえば,信頼の喪失による損害がベンダーの契約から得られる利益よりもはるかに大きくなってしまうからだ。

 例えば,マイクロソフトはガートナーのイベントの大スポンサーとなることが多いが,だからと言ってガートナーがマイクロソフト寄りの発言が多いかというと全くそのようなことはない(少し前のIISの使用見直しに関するプレスリリースを思い出していただきたい)。

 ベンダー側も自社に都合の良いことを言わなければ契約しない,自社を批判すれば解約というような姿勢の企業は少数派になっている。真のユーザーの声に基づいた建設的アドバイスならば,仮にネガティブなものであっても歓迎するという姿勢の企業が多いのである。

 もうひとつの批判はガートナーに限らず,戦略部分だけを担当し,実装部分を担当しないプロフェッショナルサービス企業は机上の論理を展開するだけであり,言いっぱなしではないかというものだ。

 これは,ある意味,正当な批判だろう。システムは実装できて初めて意味を持つものであり,戦略の立案,システムの実装,システム稼動後の運用保守などを特定のベンダーがまとめて引き受けるいわゆるワンストップサービスは顧客にとって価値が高いものだからだ。

 実際,HPによるプライスウォーターハウスクーパースのコンサルティング部門買収の試みとアクセンチュアとの戦略的提携,マイクロソフトとEDSとの戦略的提携,そして,最近の富士通とアクセンチュアとの戦略的提携などと,システムベンダーとコンサルティング会社との関係強化の動きは大きなトレンドとして存在する。

 ただし,コンサルティングから実装,保守まで行うベンダーの戦略提案においては,本当にそのアドバイスが中立的なものなのかについては,十分な吟味が必要だろう。例えば,負荷に比してコンサルティング料金が不当に安い場合は注意が必要だ。コンサルティングで儲けられなかった分を下流行程で取り返そうとするのは,営利企業であれば当然の論理だからである。

 要は,情報の中立性とサービスのワンストップ性とは二律背反的な存在であり,両者をひとつのソースから入手することは難しいと言ってよいだろう。ガートナーの先進的クライアントの中には,各実装系ベンダーからシステム案を複数募ることに加えて,ガートナーからの中立的アドバイスも含めて検討しているところもある。情報の中立性という特徴を活かしているという意味で,最も適切なガートナーのサービスの使い方と言えるだろう。

 その一方で,利害の抵触が存在するリスクを考慮せずに,特定の情報源だけに頼ることは長い目で見ると決して得とは言えないことが多いと言えるだろう。

[栗原 潔ガートナージャパン]