i2のSRM採用で約10億ドルの原価削減を達成したボーイング
| 【国内記事】 | 2002.4.25 |
4月23日,i2テクノロジーズのプライベートショウ「i2 PLANET 2002 TOKYO」のインダストリーセッションに,ボーイングのエンタープライズ・ナレッジ&リユース部門でマネジャーを務めるアルトン・サンダース氏が登場し,同社がi2のSRM(Supplier Relationship Management)ソリューションを導入して,世界各国に分散しているシステムの効率的な管理を実現し,10億ドルもの経費削減を達成したことを紹介した。
ボーイングは,イリノイ州シカゴに本社を置く,世界最大の航空宇宙企業。民間/軍事用飛行機だけではなく,航空通信システムからロケットエンジン,衛星打ち上げシステムに至るまで,商業,軍事,防衛などの分野を幅広くカバーしている。現在,世界145カ国に顧客を有し,米国,カナダ,そしてオーストラリアに製造拠点を構えている。
サンダース氏は「ボーイングのポリシーとして,特定の企業を支持することはできない」と前置きしながらも,ひとつの実例として,i2ソリューション導入事例について語った。
i2導入前の課題
ボーイングの製品は, ボルト,ナット,ブレーカーなど,212カテゴリー,60万点にも及ぶ部品から構成されている。同社では,これらの部品を「標準部品」と称してさまざまな製品に使用しているが,類似した,あるいは全く同一の仕様の部品を,別々の品番で重複登録している例が少なくなかったという。また,新たな部品の設計・開発・登録作業には,1点あたり平均3万ドルを要していた。その結果,ボーイングは標準部品の管理費用として年間20億ドルを費やしてきたという。
「民間機分野における他社との競合が激しさを増す一方で,軍事産業に対する支出は年々減少傾向に陥るなど,航空宇宙産業は過酷な状況下にある。この熾烈な競争に生き残るためには,あらゆる贅肉を削ぎ落とす必要があったのだ」(同氏)
そこでボーイングは,自社で提供中のさまざまなサービスの将来性を検討し,成長傾向にある分野に一層注力していくことを決断した。成長株の筆頭として挙げられたのが「製品サポート」だったという。その結果,顧客が求める製品を速やかに提供・メンテナンスするために,部品情報の共有が必須課題となった。
i2導入の経緯
サンダース氏は,「1993年から1995年にかけて, 当時ボーイングの競合であったロックウェル(1996年に一部部門をボーイングに売却)やマクドネル・ダグラス(1997年にボーイングと合併)は,部品情報システムにおけるソリューションを模索していた。その結果,両社はそれぞれアスペクト・ディベロップメントとCADISを選択した。1998年にはアスペクトがCADISを買収し,2000年にはアスペクトとi2が合併した。これにより,すべてのソリューションが統合され,皆がハッピーになることができた」とにこやかに話す。
ボーイング自体は,以前より旧アスペクトの製品であるeXplore Databaseを使用していた。
「アスペクトとi2の合併を契機として,ボーイングはi2の顧客となった。これは,我々にとってごく自然の成り行きだったが,結果として非常に大きなメリットをもたらしてくれた」(同氏)
プロジェクトの開始時点では,部門ごとに複数のDBを使用していた。ボーイングはi2の協力を受け,CPIMS(標準部品情報管理システム)と呼ばれる統合データベースを構築し,昨年までに,ほとんどすべてのデータがCPIMSに格納された。部品を分類するためのデータモデルはボーイングが作成したが,i2ソリューションを活用することにより,作成されたデータモデルを他のアプリケーションに容易にリンクさせることができたという。
さらに,ボーイングでは,CPIMSを活用して,部品そのものの標準化作業を3段階にわけて実施した。
第1段階では,同種部品に均一の価格を適用することに着手した。必要に応じて品番の統一も行ったが,バイヤーの意見を調査した結果,中身が同じであるということが判明してさえいれば,わざわざ時間と手間をかけて品番を統一する必要はないという結論が出たという。サンダース氏によれば,こうした結論が出たのは,既存製品で使用する部品が既に決まっているため,強引に品番を統一すると,かえって余計な混乱を招きかねないと判断したためだ。
第2段階では,既存プログラムの統合を行った。これにより,すべての部品情報が可視化され,同種部品の大量買付けの効率化や,各拠点に分散している在庫の移管が可能になった。
そして,最終フェーズとなる第3段階では,将来におけるプログラムの標準化を課題としている。例えば,現在では125の洗浄用部品を扱っているが,将来的には5つ程度にまで集約する予定という。
i2導入のメリット
ボーイングではCPIMSを活用することで,多大な効果があったという。
まず,全く同じ仕様の部品が,異なる会社から異なる品番,異なる価格で納品されている実態が浮き彫りになったため,調達コストを大幅に削減できた。また,似たような部品の仕様詳細はGUIでわかりやすく表示されるので,部品選定時の比較検討も容易になった。さらに,これまで252に分類されていた部品のカテゴリーが,実際には10程度で十分であることも判明したという。
「i2ソリューションの導入によって,部品情報の一元管理が可能になったため,新製品を設計する際の部品カタログとしての活用,および部品選定における優先順位付けが容易になった」(同氏)
部品の再利用促進も大きな成果のひとつという。
ボーイングでは,毎月約1万5000点もの新規設計部品が発表されてきた。これまでは,毎年8%の部品が新規に登録されていたが,CPIMSを活用して類似する製品を検索し,既存部品の再利用で対応できるかどうかを事前に検証することも可能になった。
「はじめから設計を行うのではなく,既存部品の再利用率を高めることで,1点あたり平均5000ドルの費用を節約できる。再利用率が5%上昇すれば,年間450万ドルもの経済効果を生み出すことができる」(同氏)
サンダース氏は,同プロジェクトの成果として,ある部品を例に挙げる。「われわれが扱っている留め金は,10年のライクサイクルを有している。にわかには信じ難いかもしれないが,このたったひとつの留め金だけでも,向こう10年間以内に1400万ドルのコスト削減が可能になるという分析結果が出ている」(同氏)
その他の製品に関しても, 年間ベースで,カテゴリーごとに5%から15%,金額にして560万ドルから1500万ドルのコスト削減が見込まれているという。
「されわれの部品のライフサイクルは非常に長く,例えば主要製品である737型航空機の製造は25年位続いている。こうした製品の部品コストを少しでも抑えるということは,長期的に見れば莫大な経費削減につながるということを忘れてはならない」(同氏)
導入の留意点
「データベースを構築しただけで,ただちにコストを削減できるわけではない」とサンダース氏は強調する。「使用する人間がシステムやビジネスプロセスの問題点を把握して,それを積極的に改善していかなければ何の意味もない。ビジネスモデルの効率化,最適化を実現するのは人間の役割だ」
ボーイングでは,エンジニア,バイヤー,在庫管理者,輸出管理者などからなる「標準部品チーム」を4つ立ち上げたという。これらのチームはCPIMSを活用して,重複部品の洗い出しや適正価格の設定を担当した。
サンダース氏は,「今回のプロジェクトでもっとも苦労したのは,部品の開発・設計者の意識改革だった」と当時を振り返っている。
「技術者は,ゼロから部品を作り上げて,その成果物を新規のものとして世に送り出したいという欲求を持っているものだ。しかしながら,削減目標を達成するためには,開発・設計を始める前に,既存部品再利用の可能性を検討させ,無駄な工数を徹底的に排除することが必要不可欠だった」(同氏)
その際,社内説得で大きな効力を発揮したのが外部業者によるベンチマークテストだったという。ボーイングはi2のユーザーグループと密接に接触し,航空産業において同様なビジネスプロセスを採用している企業からの情報収集を積極的に実施した。その結果,「ロッキード,ブリティッシュ・エアロスペースなどの競合他社からも貴重な情報を提供してもらうことがでた」(同氏)という。
また,同社はプロジェクトの実施にあたって,いわゆる「80/20ルール」を適用した。これは,本当に重要な部分は全体の20%に集約されるという考え方であり,ボーイングでも,この重要部分からプロジェクトを開始していったという。
サンダース氏は,「データシステムに対してコストを投入するということは,一見すると,効果の見えない莫大な投資に感じられるかもしれない。しかし,手作業によるデータ管理に要する費用に比べると,ソフトウェアの購入やメンテナンス費用など微々たるものだ。結果として,われは,10億ドル近くのコスト削減を達成した」と話す。
「今回,i2のソフトウェア導入にかかったコストは,従来データ維持にあてられていた費用の約15%にしか過ぎなかった。このようなプロジェクトを検討する際には,現在のコスト構造を分析することが最も重要と言えるだろう。」
[村上奈保子 ,ITmedia]
