i2 Product Sourcingの採用で開発経費を50%削減したIBM

【国内記事】2002.4.30

 4月24日,i2テクノロジーズのプライベートショウ「i2 PLANET 2002 TOKYO」のインダストリーセッションに,日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のitS B2Bコンサルティング事業部で主任プロジェクト・スペシャリストを務める高安誠治氏が登場。IBMがi2 Product Sourcingの導入でグローバルに製品開発業務を改革し,製品売上高に占める開発経費を約50%削減することに成功したと紹介した。

製品開発業務における課題

 1980年代には右肩上がりの成長を続けていたIBMだが,1990年を境にマイナス成長に転じ,赤字転落してしまった。高安氏は,「世間では“IBMはダウンサイジングの着手に遅れた”とか“PCの売り上げが落ちたからだ”などと言われていた時代もあったようだ」と話す。

 実際,ハードウェアの売り上げ額の減少は著しく,研究開発費の削減を余儀なくされたため,顧客のニーズに合った製品を世に送り出すことができないという悪循環に陥ったという。

 そこでIBMでは,製品開発費用に関するベンチマークテストを実施し,業界最良ケース(ベストプラクティス)との比較を行った。その結果,洗い出されたのは以下のような結論だった。

  • 売上高に対する開発経費が,全体の約12%を占めている。(ベストプラクティスの約2倍)
  • 製品企画から初出荷までに,ベストプラクティスの1.5倍以上の期間を要しているプロジェクトが,全体の7割にも達している。
  • プロジェクトの中途解消や設計変更などによって生じる開発費用の損失が,開発費全体の25%にも及んでいる。(ベストプラクティスの約5倍)

 また,IBMでは,製品に使用されている部品レベルでの解析にも着手した。

 当時のIBMは,54万点もの部品を所有していたが,常時1000個以上の在庫が必要となるほど頻繁に利用されている部品はわずか13点だったという。つまり,利用頻度が少ない在庫を余分に抱えていたために,在庫や物流などに無駄な費用が発生していたことになる。

 ここで高安氏は,20のモデルから成る,ある製品シリーズにおける部品の再利用率を示したチャートを披露した。このケースでは,同じシリーズでありながら,すべてのモデルに利用されている部品はゼロ。そればかりか,2000点以上の部品が各モデル固有のものだったのだ。

「当時は,特に,事業部をまたがる部品の再利用率は2%にも満たなかった……」(同氏)

改革への着手

 IBMでは上記の問題点の解決に向けて,1993年に外部からルイス・ガースナー氏(現IBM会長)をCEOとして招き,トップダウンの経営改革に着手した。

「1994年から1998年にかけて,業務プロセスの改革を推し進めていった。この際に重視したのは, IBMワールドワイドの全事業部間で,統一されたプロセスを定義することだった」(同氏)

 つまり, Web管理,CRM,SCMなどといったさまざまな事業において,共通のプロセスにのっとった業務を展開していくことを義務付けたのだ。また,それぞれの事業は組織横断的なチームで編成された。営業,開発,工場担当,サポートなどといった複数の部門のメンバーを各事業に参画させたという。また,知識,情報,ITなどのインフラ部分に関しても統一を図り,全社的に共通の基盤上で作業を進めることが決定された。

 このようにIBMでは,組織,プロセス,ツール(インフラ)の総合的な改革を推進していった。こうした事業の中で,製品開発業務改革を担当したのがIPD(統合製品開発)だった。

 IPDは,ハードウェアの開発期間の40%短縮や,PCモデルの80%削減,余剰在庫の2億ドル削減などを目標として掲げた。その組織は,IPMT(統合ポートフォリオ管理チーム)と,実際の開発を担当するPDT(プロジェクト開発チーム)から編成される。まず,IPMTが市場調査や戦略策定を行い,ビジネス計画を立案する。そして,その開発をどのPDTに担当させるかを決定して,PDTと契約を締結する。PDTは,IPMTが策定したビジネス戦略に基づいて開発コンセプトを決定し,製品の開発から出荷までを実行する。

 なお,IPMTとPDTは,どちらも組織横断編成を取ったことが特徴だ。

「すべての部門のスペシャリストが集まってプロジェクトを構成しているため,プロジェクトマネジャーが担う役割は非常に重要なものになる」(同氏)

 ここでは,IPMTが開発プロジェクトに対して管理責任を担っているという点に注目できる。IPMTは開発の進捗状況を監視し,各工程(コンセプト決定,計画,開発,評価,出荷,製品のフェードアウト)ごとにPDTのメンバーと共同でチェックする。このチェックで,事前に設定された評価基準を完全に満たしていないことが判明すれば,次の工程に進むことはできなくなる。

 また,IPMTは市場分析にかなりの労力を割いているという。同氏は,「これまでは,ひたすら高品質の製品を作ることを追求していたため,必ずしも顧客のニーズにそぐわない製品を送り出していたことも否めない。市場調査やポートフォリオ分析を積極的に行うことによって,市場が真に求めている製品を予測できるようになったのだ」と話している

 PDT側でも無駄な作業を大幅に削減することができたという。従来は,世界各国の複数のプロジェクトに同じ製品の開発を競わせて,結果をみてからどのプロジェクトを採用するかを決めていたが,あらかじめIPMTがプロジェクトを選定し,PDT内においてもコンセプト,計画段階に重点をおいたため,最終的に「負ける」プロジェクトを初期段階から排除することが可能になったという。

i2 Product Sourcingの導入

 このような開発業務改革の推進において重要な役割を担ったのがi2 Product Sourcingだった。

 IBMでは,1995年からi2 Product Sourcingを利用している。PCおよびRS/6000をクライアント,SP/2,AIX V414をサーバとして活用。ニューヨークにマスターデータベースをおき,英国と日本にレプリケーションデータベースが設置された。当初,日本とイギリスのサーバは,単なるレプリカだったが,ネットワークインフラが発達した現在では,日本からも直接ニューヨークのマスターに情報を書き込んでいるという。

 同社はこのシステムを活用して,開発業務における無駄を次々と排除していった。まず,使用率の低い部品を洗い出し,在庫部品番号(種類)数を大幅に削減した。続いて,同一の仕様を持つ部品の中から,全社共通の推奨部品を設定し,部品再利用率を促進させた。さらに,CBB(Common Building Block)と呼ばれる製品を構成するモジュール(RAM,ハードディスクなど)の全社認定によって,設計の共通化も推進したという。

 なお,CBBは部品委員会の審査を経て初めて認定され,CBB以外の製品を用いることは原則として認められない。

 また,CBBにはサードパーティー製の製品も数多く認定されている。こうした市販部品再利用率の向上によって,全社規模で戦略的な集中購買を実現し,サプライヤーを絞り込んでいった。

「i2 Product Sourcingは,IBMのデータモデル,推奨部品,部品の図面やイメージデータ,オンラインカタログなどをすべて格納しており,PDTが担当する全工程に関与している。これによって,開発者による部品の選定が容易になった」(同氏)

導入効果

 高安氏は,「i2 Product Sourcingの導入を中心とした改革の効果は,当初から明確な数字として現れていた」と話す。

 導入による主な成果は以下の通りだ。

  • CBBの採用による費用削減:CBBという概念の採用によって,使用頻度の低い部品の在庫および物流費を削減した。また,推奨部品の再利用率を高めて設計の共有化を図ることも行った。これらの業務改革により,1996年には1億ドル,1999年には7億ドルの累積費用を削減できた
  • 部品の外部調達率の向上:導入以前は3割程度だったのが,現在では50%以上に達し,より強力な市場競争力を得られた。
  • 部品番号数の削減:同一の仕様を持つ部品や,既に使用されていない部品をi2 Product Sourcingで洗い出すことにより,54万点あった部品番号数を,1/2以下の24万点にまで絞り込んだ
  • 開発経費の削減:これまで売上高に対して約12%を占めていた開発経費の50%削減が実現し,ベストプラクティスに並ぶことができた。
  • 無駄な開発プロジェクトを90%以上削減できた
  • 部品再利用率の向上:異なる部門間では2%にも満たなかった再利用率が,34%まで向上した。

 こうした成果に基づき,IPDの総計としては16億ドルもの費用削減を達成することができたという。そしてIBMは,IPDを含む一連の経営改革によって,1995年からは再び黒字企業への復活を果たした。

「i2 Product Sourcingは単なるデータベースではなく,技術系データプロバイダー,購買系プロバイダー,そしてサーバ管理やデータ検証を行うプロジェクトオフィスなどをすべて透過的にリンクさせている。現在,そして将来にわたっても,製品コスト節約への切り口としておおいに活躍してくれることを確信している」(同氏)

[村上奈保子 ,ITmedia]