エンタープライズ:トピックス 2002年5月13日更新

Gartner Column:新生HPの製品戦略を分析する -1-

 HP−コンパック合併の株主投票について,第39回のコラムで「まさか先の米国大統領選のような事態にはならないとは思うが……」と書いたが,ご存知のように,本当にまさにそれに近い状況になってしまった。

 最終的な投票結果では合併賛成派と反対派の差は4%にすぎない。要するに今でも合併に不満や不安をもつ株主が数多くいるということだ。また,社員の中にも多くの反対派がいることは想像に難くない。

 このような必ずしも全面的には歓迎されずに生まれた企業をフィオリナCEOはどう舵取りしていくのだろうか? 法的な合併プロセスは完了したとは言え,早期に結果を出し合併の効果を実現できるまではこの合併が完了したとはいえないだろう。

 もちろんグッドニュースはある。フィオリナ女史がかねてから合併成立後,ただちに公表すると述べていた新生HPの製品戦略が,5月7日にアナリスト向けに公開されたが,その内容がこれだけの規模の企業合併としてはかなりよくできたものであったからだ。これには,土壇場の訴訟騒ぎにより十分以上の準備期間をかけられたこともあるだろう(合併が確定するまでの両社の経営陣の不安感は相当なものであったと推測されるが)。

 実際,既に4月当初よりトップマネジメントおよび重要顧客1000社のアカウントマネジャーが任命されており,少なくとも製品戦略とトップ組織については新生HPの準備は整っている。

 日本法人については,現時点では具体的な分析を行える段階ではないと思うが,タンデム,DECと複雑な買収劇を乗り越えてきた高柳肇新社長の手腕には期待できるのではと考えている。

 今回と次回にわたり,新生HPの製品戦略の内容を分析してみよう。基本的には旧HPと旧コンパック間で重複する製品があった場合には,市場でより成功している方だけを残すという方針が貫かれている。

PC:企業向けデスクトップPCおよびノートPCではコンパックの製品ラインが残ることになり,HPの製品ラインは年内にも消滅する。

 消費者向けデスクトップおよびノートブックでは,当面,両社の製品が並存することになる。これは,製品ブランドがより重要な消費者市場においてはやむをえない選択であろう。出荷台数で言えば,HPとコンパックを合わせたことによりデルを凌駕できるわけだが,コスト面での課題は大きい。これが創業者一族のヒューレット氏が合併に反対してきた大きな理由でもある。おそらく,この点が,新生HPの最大のアキレス腱になるだろう。

プリンタ:ワールドワイドではHPはプリンタのトップメーカーであり,当然のことながら,HPの製品ラインが残ることとなった。

PDA:市場シェアを大きく伸ばしているコンパックのiPaqが継続し,HPのJornadaは年内にも製品ラインから消えることになるようだ。個人的に言うと,逆ポーランド電卓時代からHPのキーボードの独特のタッチが好きだった私には少し残念ではあるが。

PCサーバ:PCサーバにおいては,コンパックのProLiantが残ることになる。ブレードサーバ(第41回参照)においては両社の製品が残るが,一般企業向けにはコンパック製品が中心となるようだ。IPFのPCサーバについては,UNIXサーバ部門とPCサーバ部門の協力により,新たな製品開発が行われていくようだ。これは,いずれPA-RISCがIPFへと移行していくことを考えれば当然である。

 2005年にPA-RISCからIPFへの移行が完了した後は,HPのサーバはWindows向けもhp-ux向けもハードウェア的に同一にできることになる。これは,HPの大きな差別化要素になるだろう。

ノンストップ:一部の既存ユーザーから継続性について不安の声があがっていたが,Himalaya(旧タンデム)のノンストップ機は継続されることとなった。市場シェアは決して大きくないが,大企業ユーザーの超重要業務をサポートすることによるアカウントコントロール,大規模OLTP環境でのIBMメインフレームの対抗ソリューション,そして,UNIXにも応用可能な無停止のテクノロジーという点で,Himalayaを落とすわけにはいかなかったのだろう。なお,HimalayaにおいてもIPFが採用されていく予定だ。

UNIXサーバ:ここでは,HPの製品ラインが残り, コンパックのTru64 UNIXそしてAlphaプロセッサは(既に発表されていたとおり)2006年までにかけてフェードアウトすることになる。技術的に見ればきわめて強力なTru64 Clusterなどのテクノロジーは,段階的にhp-uxに移植されていくことになる。

その他のサーバ: コンパック(というよりも旧DECの)OpenVMSは継続されるようである。HPの独自プラットフォームであるHP3000はフェードアウトしていくようだ。

ストレージ:ミッドレンジ以下では,旧コンパック製品,ハイエンドは旧HP製品という住み分けができるストレージは両社のシナジーを発揮しやすい分野である。ただし,新ストレージ部門マネージャのハワード・イライアス氏はコンパック出身であり,旧HPストレージ部門マネージャのノラ・デンゼル氏は,ソフトウェア部門のマネジャーとなった。ゆえに,どちらかといえば,ストレージ事業はコンパック主導型で進んでいくと見てよいだろう。

 多くの人が指摘するように製品ラインの観点から見た新生HP最大の課題はソフトウェアとサービス分野だろう。次回は,新生HPのソフトウェアビジネスの課題について分析してみたい。

[栗原 潔ガートナージャパン]