| エンタープライズ:トピックス | 2002年6月24日更新 |
Gartner Column:第52回 何かと騒がしいアプリケーションサーバ市場
今月はアプリケーションサーバ市場において4つのかなり重要な事件が起こった。しばらくは、この市場から目が放せないようだ。
まず、6月4日のアナリストブリーフィングにおけるHPのアプリケーションサーバ製品市場からの実質的撤退宣言である。第47回の記事では、「Netaction戦略をトーンダウンし、パートナーに依存する戦略に方向転換」と控えめな書き方をしたが、HPはよりドラスティックな決断をしたようだ。
中途半端な位置付けの製品を維持することで顧客を不安な状態に置くくらいであれば、思い切って切り捨ててしまった方がよいということはある。しかし、アプリケーションサーバ市場においてIBMとサンが顧客のコントロール権を獲得すべく積極的な姿勢に出ている中、自社ソフトウェア製品による地位を築けなかったことは、今後のHPの大きな課題となるだろう。
次に、6月5日にSAPが行ったmySAP.comの基本テクノロジーを独立したミドルウェア製品、すなわち、J2EEベースのアプリケーションサーバ「SAP Web Application Sever」、およびXMLベースのインテグレーションブローカ製品「SAP Exchange Infrastrcuture」として提供開始するという発表である。
ちなみにUNIX/Windowsの世界で最も使用されているTPモニターは何かご存知だろうか。答はTuxedoでもEncinaでもCICSでもなく、SAP R/3内蔵のTPモニター機能である。つまり、トランザクションミドルウェアという点では、SAPは十分な実績を有しているのだ。
SAPがアプリケーションサーバ製品ベンダーとして、IBM、BEA、オラクル、サンと直接的に競合していくためには市場への参入は遅すぎた。しかし、SAPアプリケーション製品のユーザーが、SAPの世界に自社アプリケーションや他社のパッケージ製品を統合するという、いわゆるEAI実現のためのプラットフォームとしては、SAPの新製品群は有望な選択肢となるだろう。
実際、多くのEAI製品がSAPアプリケーションへのアダプタ機能を差別化要素としていることからも、SAPとの連携機能はユーザーにとって重要なポイントであることが分かる。集約の方向にあると思われたアプリケーションサーバ市場にも思わぬところから強力なプレーヤーが参戦したわけである。
さらに6月10日、ノベルがシルバーストリームを買収した。正直な話、「なぜ、ノベルが?」と思った方も多いのではないだろうか? 日本市場で、ノベルは影が薄いように見えるかもしれないが(失礼)、ワールドワイドで見れば業績は比較的堅調である。実際、ガートナーのベンダー評価ではPromising(5段階評価の3)の評価を受けている。
もちろん、今後、NetWareの市場が右肩上がりで伸びていく可能性は低い。同社が未来を賭けているのはディレクトリ関連ビジネス、および、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーの買収により得たサービスビジネスなのだが、これらに加えて、アプリケーション基盤関連のビジネスはなんとしても欲しいところだったろう。
Netwareは、アプリケーション基盤としてはアーキテクチャ的に厳しいところがある。アプリケーション基盤製品の獲得は、今まで同社が、DR-DOS、UNIXwareにより追求し、成功できなかった悲願でもあり、この買収はWin-Winのパターンではある。しかし、集約化の方向にあるアプリケーションサーバ市場において差別化要素を出していくのは大きな課題だ。テクノロジー的にはシルバーストリームの製品とノベルのディレクトリ製品との統合が最優先課題となるだろう。
最後に、6月19日にサンが行ったSUN OneアプリケーションサーバのSolaris以外の(他プラットフォームへの)無償提供の発表である。ご存知のように、既に、サンは、Solaris 9にアプリケーションサーバの基本バージョンをバンドルする戦略に出ている(第48回参照)が、さらにその戦略を拡大してきたわけだ。
アプリケーションサーバ市場においてIBM、BEA、オラクルに次ぐ4位の位置にあるサンが追い上げるため、また、開発者にとっての敷居の低さを大きな差別化要素とするマイクロソフトの.NET戦略に対抗していくためには、このくらいの積極策が必要なのは当然だ。しかし、製品を無償供与すればユーザーを獲得できるかというとそういう簡単ではない。
実際、HPはNetactionをバンドル提供していたにもかかわらず、市場での地位を築くことができなかった。サンは、ソフトウェアビジネスに対して全社的にコミットしていることを市場に対して今まで以上にアピールしていかなければならないだろう。
何か4回分のネタを1回で終わらせてしまってもったいないような気がしてきたが、とにもかくにも、アプリケーションサーバ市場はホットな領域であるということが言えるのである。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]
