携帯eコマースへの期待──Amazonモバイル(前編)神尾寿の時事日想

» 2005年05月17日 10時54分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1995年に誕生したAmazonは、PCとインターネットの普及率向上に伴って急成長。今や世界最大の総合eコマースサイトになっている。2000年には“日本上陸”を果たし、時を同じくしたブロードバンドの普及も手伝って、一気にビジネスを拡大した。

 そのAmazonが日本先行で取り組んでいるのが、携帯電話を使ったモバイルeコマースの分野だ。同社は2004年11月、携帯電話向けサイト「Amazon Anywhere」を全面的にリニューアルし、「Amazonモバイル」をオープンした(2004年11月22日の記事参照)

 PCインターネットで成功したeコマースの覇者は、モバイルeコマースをどのように見ているのか。アマゾンジャパンの竹村詠美マーケティングシニアマネージャーと、平山景子Amazonモバイルプロダクトマネージャーに話を聞いた。

マーケティングシニアマネージャーの竹村詠美氏(右)と、Amazonモバイルプロダクトマネージャーの平山景子氏(左)

携帯電話の進化にあわせて、「PC版に追いつく」

 2000年にスタートした日本版Amazonは急成長した。2004年の段階で12カテゴリ、約700万点の商材を扱う総合eコマースサイトになっている。Amazonのアクティブカスタマーは、2004年9月段階で約380万人以上を数える。

 同社では「顧客至上主義」に基づき、低価格・セレクション・利便性を3本柱に、迅速な価格変更や商品のリコメンド、購入者の声がそのまま掲載されるカスタマーレビューなどを用意しているという。Amazonモバイルでも基本的な姿勢は変わらないが、そこにモバイルならではの新たな価値、イノベーションを加えていく方針だ。

 「まず(携帯電話対応の)モバイル版で目指したのは、PC版とほぼ同じサービスが携帯電話各社の端末で受けられる『1コンテンツ6プラットホーム』です。対応カテゴリーもPC版と同じにしました」(竹村氏)

 むろん、PC版と携帯電話版では、ユーザーが置かれる操作環境が大きく異なる。携帯電話の小さい画面と入力環境の弱さにあわせて、ユーザーのクリック数が最小化で済むようにUI面での改良を行っている。一方で、第3世代携帯電話によるパケット料金定額制を見越し、商品の写真やカスタマーレビューの表示を強化。より詳しく商品について知りたい時は、PC版と遜色ない情報量が得られるようにしている。

 このようにAmazonモバイルの最初のミッションは、PC版で培った商品情報量の多さや使いやすいサービスを、モバイル版に持ち込むことだった。その追い風になったのが、「パケット料金定額制と、大型のQVGA液晶搭載端末の普及」(竹村氏)である。

携帯電話ならではの「カメラ活用」

 Amazonモバイルでは、携帯電話ならではの機能も追加されている。それが携帯電話内蔵カメラで商品バーコードを読み取る「Amazonスキャンサーチ機能」だ。この機能では、携帯電話で一般的なQRコードではなく、商品に印字されているJANコードをカメラで撮影することで商品情報を認識。Amazon上の商品データベースの該当商品ページに直接アクセスする。

iアプリとして配布されているAmazonスキャンサーチ。起動して(左)、CDなどの商品に付いているバーコードをカメラでスキャンする(中)。商品がAmazonモバイルで扱われているものであれば、詳細が表示される(右)

 「Amazonスキャンサーチは今のところiアプリ版しかありませんが、実際に使われた方には好評です。我々としては、エレクトロニクスカテゴリーの消耗品購入や、リアル店舗で商品のより詳しい情報を調べてもらう時に活用できる機能だと考えています」(竹村氏)

 Amazonスキャンサーチに関しては発表当初、書店やCD販売店などリアル店舗で商品バーコードだけスキャンするという使い方が、携帯カメラで必要な部分だけ写真を撮影する「デジタル万引き」に繋がるのではないかという意見もあった。しかし、その心配はなく、むしろ消費者の購買意欲を向上させられるというのが、Amazonの考えだ。

 「ポイントは携帯電話を通じて(Amazonの)情報データベースにアクセスできることです。例えば、同じ作者やアーティストの別作品、内容的に関連する商品の情報が簡単に得られます。手に取った商品はそのまま店舗でお買い求めいただき、関連商品はAmazonで注文しておくといった連携ができるのではないかと考えています」(竹村氏)

 Amazonユーザーの購買動向では、シリーズ物や関連商品がまとめて買われる傾向があるという。eコマースでは届くまでに最短でも24時間かかる。リアル店舗とAmazonモバイルでの購入が連携できれば、消費者にタイムラグを感じさせることなく、リアルとeコマースの両面から“まとめ買い”を引き出せるというのが、Amazonスキャンサーチの狙いだ。

 しかし現実には、店内で商品バーコードを携帯電話で撮影するというのは、リアル店舗とユーザー側の抵抗感があるだろう。リアル店舗とeコマースの連携は、うまくいけばコンテンツ販売量の増加にも繋がる可能性があるが、商慣習やリテラシーの壁は大きい。Amazonスキャンサーチが販売機会の増加で活用されるには、リアル店舗側がeコマース連携の価値をどれだけ見い出だせるかにかかっている。

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