電波で情報を送れる仕組み 1 塩田紳二のモバイル基礎講座 第5回: (4/5 ページ)

» 2005年06月13日 04時27分 公開
[塩田紳二,ITmedia]

変調速度、通信速度

 アナログ通信では、連続したアナログ値の送信が必要になりますが、デジタル通信では、最低限、0と1だけ区別できれば、通信が可能です。しかし、同時に複数のビットを送ることができるのなら、通信効率があがります。たとえば、2bitつまり、4つの状態を区別できるような変調方法があれば、通信速度の2倍の情報を送ることができるわけです。

 このため、デジタル通信では、情報の通信速度と変調が搬送波を変化させるスピードが違ってきます。前者を一般に通信速度といい「Bit/Sec」で表現します。後者は「変調速度」といい、“Baud”(ボー。フランス人技術者J.M.E.Baudotの名前から付けられたため、Baudotという表記をする場合もある)という単位を使います。変調速度は、変調による変化が1秒間に何回行われるかを示します。かつてのアナログモデムによる通信では、通信速度を表すのにこのBaudが使われていました。これは変調方式が単純だったために、通信速度と変調速度が一致していたからです。

 最近のデジタル通信では、同時に複数のビットを送信することが普通です。このようにすることで、通信速度に対して、変調速度を遅くできるため、アナログ関係の回路が関係する変調回路や復調回路のコストを下げることができるからです。

複数ビットを送る方法

 デジタルデータをそのままベースバンド信号として変調を行うと、変調波は、1で変調したときと0で変調したときの2つの状態しかありません。しかし、無段階のアナログ値を変調で送信できることを考えれば、複数の変調状態を作ることで同時に複数のビットを送ることができるはずです。このように、一回の変調で、複数のビットを送る方法を「多値変調」といいます。

 通信関連では、一回の変調で送られるこの1まとまりのデジタルデータを“シンボル”といいます。2bitの情報を同時に送る場合、シンボルは4種類あることになります。また、このシンボルでみた通信速度をシンボル・レートといいます。

 送信するデータの2bitを1つのシンボルとして送れば、シンボルレートは、データ転送レートの半分になります。

 搬送波として送信される電波はアナログの信号であるため、前記のASK、FSK、PSKのどれでも多値変調が可能です。このうち、携帯電話関係で比較的よく使われるのがPSKです。PSKでは、位相を変化させますが、これを4段階で変化させるものをQPSK(Quadrature PSK)といいます。これに対して、単に1bitの情報を送る方式をBPSK(Binary PSK)といいます。

 前回解説したように位相は、0〜2πの値で表すことができます(4月19日の記事参照)。BPSKでは、0とπに0と1を割り当てるという方法を使います。QPSKでは、1/4π、3/4π、5/4π、7/4πを使います。位相は、円周上の点で表現できます。

1/4πずつ位相を割り当てていくQPSK

 ただし、このQPSKでは、シンボルの組合せによっては、位相が大きく変化します。つまり、円周上で隣に移るときとそれ以外のときでは、位相の変化量が違っています。このようになると、波形自体が大きく変化することになるため、周波数帯域が広がってしまいます。これを押さえるための方式がπ/4シフトQPSKというもので、PDCなどで使われる方式です。

 この方式では、1回の位相の変化を±1/4π、±3/4πだけに制限します。その代わり、位相の取る値は、0〜2πの間を8等分したものを使います(図)。

搬送波位相の変化を、±π/4と±3π/4に制限することで、周波数帯域が広がらないようにするπ/4シフトQPSK。PDCなどで用いられる

 2bitに対応した4つの位相の組が2つあり、これを交互に使うようにすることで、位相の変化を小さくする方式です。

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