クルマが求めるワイヤレス通信とは?──トヨタ自動車キーマンが語るワイヤレス業界のこれから(1/4 ページ)

» 2005年07月11日 20時50分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 クルマは「IT技術の集合体」だ。エンジンからワイパーまでコンピュータによって制御され、通信や放送のサービスを用いて外界とのリンクも始まっている。クルマは今後、ワイヤレス通信の技術やサービスに何を求めるのか。トヨタ自動車IT・ITS企画部長の大西弘致氏に聞いた。

トヨタ自動車IT・ITS企画部長の大西弘致氏

クルマとワイヤレス通信

ITmedia 1970年代以降、エンジンのイグニッション(燃料噴出装置)制御技術を皮切りにクルマの電子制御化が急速に進み、クルマにとってITは欠かせない要素技術になってきました。まずはクルマのITの現状について教えてください。

大西 クルマのIT化を大きく分類しますと、「通信系」「放送系」「制御系」の3要素になります。この中でインタラクティブ性が求められるのは、テレマティクスやVICS(光ビーコン)で用いられる通信系と、ASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)で重要性が高まっているミリ波レーダーやレーザーレーダーなど制御系の分野になります。

ITmedia 通信と放送は外部インフラとの連携になるので、当然ながらワイヤレスが前提になります。一方で、制御に関しては検知用のレーダーセンサーを除けば、どちらかといえば車内機器の通信になります。車内LANに関しては、現在、CAN(Controller Area Network、車内LANの方式の1つ)などワイヤードのものが主流ですが、ワイヤレス化の動きなどはあるのでしょうか。

大西 確かに現在はワイヤー(有線)の車内LANが中心ですが、制御系においてネットワークの負荷は急速に高まっています。現在、高級車などIT化が進んだクルマですと60〜70個程度の制御用コンピュータが搭載されています。これらのコンピュータ(ネットワーク)がモーターやアクチュエーターの制御を行うのですが、ここまでコンピュータが増えるとワイヤーハーネスの量が膨大になってくるのですね。まさに“配線だらけ”になってきている。

ITmedia 配線が多いということは、部材費や生産性におけるコスト増大を招きますし、廃車時のリサイクルにおいても不利ですね。

大西 その通りです。今後はワイヤーハーネスの合理化をしなければならない。その中で、(広帯域の)光ファイバーと(ケーブルレスの)ワイヤレス通信を使った次世代車内LANの必要性が高まっています。

ITmedia 光ファイバーとワイヤレス通信は、優先度における使い分けとなっていくのでしょうか。

大西 クルマというのはお客様の人命を預かるものですから、確実性は重要です。特にプリクラッシュセーフティやエアバッグなど安全制御システムの通信は、即応性や確実性が極めて重要になる。この分野ではワイヤレス通信の利用は現時点では不安ですね。

ITmedia 最近では駐車時に使うリアビューカメラやサイドビューカメラ、後席エンタテイメントシステムなど、安全に関わらないがネットワークを必要とするデバイスも増えています。車内向けのワイヤレス通信は、こういった派生分野にニーズがありそうですね。

「安全」「環境」のための通信技術

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