「持ち込みケータイ」対策が、新規契約・ビジネスを生み出す 神尾寿の時事日想

» 2005年12月07日 15時06分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 12月5日、日本電気とNECネッツエスアイが通話とデータ通信両方の公私分計を可能にし、個人所有の携帯電話から企業内情報ポータルに接続できる携帯電話向けポータルソフト「UNIVERGEケータイポータル」を共同開発し、当該ソフトの販売と新ソフトを用いたシステム構築サービスを提供すると発表した(12月5日の記事参照)。これはビジネスシーンにおける「持ち込みケータイ」対策の機能である。

 個人契約の携帯電話を仕事でも使う。いわゆるビジネスコンシューマー層の利用スタイルである「持ち込みケータイ」は、2005年を通じて重要なテーマの1つであった。今年2月にITmediaビジネスモバイルの斎藤編集長とともに参加した「Vodafone Business Conference」(募集ページ参照)のトークセッションにおいて、持ち込みケータイの問題性と今後の対策は主要テーマとなっていた。また、ウィルコムの八剱社長の掲げるダブルホルダー市場の創成も(11月22日の記事参照)、その背景には、今後は持ち込みケータイが減少し、「法人」と「個人」に市場が分化、その時に2台持ちになるという分析がある。

 一方で、筆者が関わった複数のアンケート調査の結果を見るかぎり、法人契約の携帯電話を支給されているビジネスユーザーは少数派だ。今年5月にインフォプラントが行った調査(5月18日の記事参照)でも、携帯電話を会社から支給されているユーザーは全体の2割強という結果になっている。

中小企業よりも大企業の方が「法人契約化」が難しい?

 仕事における携帯電話の重要性が高まり、個人情報保護に対する意識も向上する中で、「持ち込みケータイ」の問題が今後さらに表面化するのは想像に難くない。持ち込みケータイは今後、減っていくだろう。

 筆者は今年、企業内の携帯電話利用の変化について、東京圏と地方の両方で取材していたのだが、そこで興味深かったことがある。中小企業の方が、積極的に携帯電話の法人契約化に踏み切るのだ。

 例を挙げてみよう。西日本地域のあるキャリアの一次販売代理店で、法人契約専門の営業担当が、今年に入ってから持ち込みケータイのリスクと法人契約切り替えに伴うコスト負担について子細に説明する営業活動をしたところ、「モデル地域で中小企業を中心に月間400〜500の新規契約を獲得できた。今後、法人営業担当の増員を行う」という。またウィルコムの法人契約の例でも、20〜30回線規模の中堅企業の契約が多いと明かされている(11月21日の記事参照)

 中小企業の場合、社員の携帯電話の「法人契約切り替え」はコスト負担を大きく捉えられそうだが、持ち込みケータイの場合も、会社の固定電話から社員に連絡した際や、手当の支給などでコスト負担をしている。また、社員の持ち込みケータイを法人契約に切り替えたある企業経営者によると、士気や生産性の点でも、法人契約への切り替えはトータルで企業側のメリットが大きいという。

 「持ち込みケータイだと社員が外出先から(自分の携帯電話で)仕事の電話のかけたがらないなど、士気への影響が無視できない。携帯電話手当の支給金額は一律なので、必要な時にも電話をかけない社員がいた。またオフィスで携帯電話を使っている社員がいても、それが業務なのか私用なのかわからない。携帯電話の利用ルールが徹底できず、生産性への影響が無視できなかった」(中堅企業経営者)

 これらは大企業でも同様の問題であるが、社員数の少ない企業ほど、士気や生産性の悪化は目につきやすい。それに契約規模の小ささも加わり、問題点に気づいた中小企業から法人契約が増えているようだ。ちなみに、筆者が取材した複数の企業では、法人契約への移行とともに、業務時間内の私用携帯電話の利用を制限もしくは禁止している例が多かった。

大企業向け「分計サービス」も期待できる

 一方、今回発表された「UNIVERGEケータイポータル」は、持ち込みケータイを使いながら、業務と私用利用を分けられる分計のソリューションサービスだ。分計サービスについては、各キャリアが請求書でのオプション発行を行っているが、これはあくまで料金精算のためだけ。UNIVERGEケータイポータルの特徴は、顧客の電話番号やメールアドレス、業務情報がサーバー側で管理される点だろう。

 大企業の場合、業務での携帯電話利用頻度や重要性についての個人差が大きいため、全社員の携帯電話を一気に法人契約に移行するのは難しい。一方で、社内の稼働台数規模は大きいため、UNIVERGEケータイポータルのような分計サービスは使いやすいだろう。またASP型のサービスが始まれば、法人契約への移行に踏み切れずにいる中小企業にもリーチできる。

 持ち込みケータイ対策は、来年も引き続き主要テーマの1つだ。この分野は新規契約の獲得や、新ビジネスに繋がる要素が大きいため、今後も注目である。

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