IEEE 802.20の、モバイルWiMAXに対する優位性とは――クアルコムジャパンInterview(1/2 ページ)

» 2006年03月16日 21時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 ワイヤレスブロードバンドを支える技術として、「モバイルWiMAXありき」の現状に異議を唱えるクアルコム。同社は次世代のワイヤレスブロードバンド技術として、IEEE802.20方式を推している(3月10日の記事参照)。クアルコムジャパン社長の山田純氏に、802.20方式の優位性と、指摘されている課題への対応について聞いた。

photo クアルコムジャパン社長の山田純氏

802.20のスタンスと標準化プロセス

 現在の第3世代携帯電話の基礎であるCDMA技術の基本特許を多く持つクアルコムだが、一方でワイヤレスブロードバンド向けの新たな技術が必要であることも認識しているという。その中で同社が推すのが、IEEE 802.20方式だ。

 「我々としては次世代ワイヤレスブロードバンドではHSDPAやEV-DO Rev.A以上の周波数利用効率(2005年6月17日の記事参照)、(3G技術と同水準の)リンクバジェット(3月10日の記事参照)、QoSなどが重要だと考えています。それらの条件をクリアするものとして802.20を推しています。

 しかし、何もかも新設計すればいいという考えではありません。例えばQoSの制御では、EV-DO Rev.Aのプロトコルが現存する技術の中で最も優れていると認識しており、その部分は(802.20でも)積極的に活用しています」(山田氏)

 モバイルWiMAXは固定向けワイヤレス通信のWiMAXを拡張して作られた技術であるが、802.20方式は最新の3G技術や開発ノウハウが混血するハイブリッド型と言える。このようなアプローチを取るのは、3Gの基礎技術を築いてきたクアルコムが中心的役割を果たしているからだろう。

 「標準化の取り組みとしては、2003年にIEEE 802.20のワーキンググループが発足しています。ただ我々としては、『次世代ワイヤレスブロードバンド』として新たに始めるならば、それにふさわしい技術でなければならないと考えまして、標準化方法や評価プロセスの確立など細かい部分まで作り込みをしました。この作業に1年以上かかってしまった。

 しかし、この目標と評価の議論をしている間に、多くの企業が802.16e(モバイルWiMAX)の標準化委員会に移動してしまった。我々が基本要素の策定で多くの時間を費やしたために、具体的な機器やサービスの議論になかなか進まなかった。『早く何かを作りたい』という人たちは、待ちきれなかったんですね(苦笑)」(山田氏)

 多くの企業がモバイルWiMAXへと離れていった後も、クアルコムや京セラなどは802.20委員会に残り、標準化作業を進めた。2005年11月に標準化提案が行われ、2006年1月にベースライン仕様が策定された。

802.20のポイントと優位性

 多くの企業が標準化作業から離れていく結果になっても、クアルコムは802.20に「次世代技術としてのこだわり」を持ち続けた。それらは802.20の技術的優位性として現れている。

 特に大きなポイントとして挙げられるのが周波数利用効率である。クアルコムでは次世代技術の条件として「1bps/Hz/セクター」を掲げており、当然ながら802.20はそれをクリアする(3月10日の記事参照)

 「802.20の提案では、この周波数利用効率においてHSDPAやEV-DO Rev.Aの2倍まで上げられます。これを実現するために802.20ではOFDMA技術とMIMO技術を採用し、さらに周波数利用効率と高速移動時性能を最適化しています。またシグナリングにはEV-DO Rev.Aのプロトコルを使い、マルチレベルQoSと完全なハンドオフをサポートします(1月23日の記事参照)」(山田氏)

 これらの中で、変復調方式のOFDMAはモバイルWiMAXでも使われているが(2005年4月8日の記事参照)、「OFDMAは重要な要素ではあるが、それだけで周波数利用効率が向上するわけではない」(山田氏)。MIMOを筆頭にするアンテナ技術や干渉制御技術などの影響が大きく、周波数利用効率向上には総合的なバランスが求められてくるという。複数の要素技術の組み合わせやバランスを重視しているのが、802.20の大きな特徴であり、技術的優位性になっている。

 「(モバイルWiMAXのように)OFDMAだけだと必ずしもいい性能が出ない。例えば干渉耐力の点ではCDMAの方が優秀ですので、802.20では上り(RL)の制御チャネルではCDMAを使っています。上り制御チャネルがうまく通らないと、データ通信そのものが始まりませんからね。このように実際にサービスが行われるモバイル環境の実態にそくして、バランスのよい技術の組み合わせをする事が重要です」(山田氏)

 また今後、音声サービスも含めてIPトラフィックに移行することを想定して、802.20ではQoS制御が重視されている。この部分は先述の通り、EV-DO Rev.Aの技術が投入されている。「例えばひとつのセクターで、FTPやHTTP、TV電話、VoIP通話を一定比率で混合させて、収容人数を上げていってもVoIP通話の遅延時間だけは増やさないといった制御が実現できる」という。

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