ドコモ東海にとって、MNPは千載一遇のチャンス――榎啓一社長に聞く(前編)Interview(1/2 ページ)

» 2006年08月10日 13時04分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 番号ポータビリティ制度(MNP)の実施日が、10月24日に決定した(8月9日の記事参照)。携帯電話キャリアにとっては、この数年をかけて準備してきた取り組みが結果に結びつくか試される「本番」だ。それがいよいよ目前に迫る。

 MNPの結果はふたを開けてみなければわからないが、キャリア同士の激戦が繰り広げられるのは間違いない。中でも、全国にはいくつか「激戦区」が存在する。それぞれの地域でのシェア獲得の攻防戦が、全国区の結果に少なからず影響するだろう。

 今日と明日の時事日想は特別編として、激戦区の1つ「東海エリア」に注目。NTTドコモ東海社長の榎啓一氏(2005年5月12日の記事参照)のインタビューをお届けする。

ドコモ東海社長の榎啓一氏

東海エリアは“ドコモが弱い”地域

 東海地域は唯一、ドコモのシェアが50%を割り込んでいるエリアだ。電気通信事業者協会(TCA)の各地域会社別の累計契約者数で比較すると、NTTドコモが46%、auが25%、ツーカーセルラーが3%、ボーダフォンが26%というシェア分布になっている。東海エリアでは各キャリアの地域会社がカバーする事業エリアが完全に重なっておらず、1〜2%の誤差はあるが、全国的に見ても珍しい「ドコモが弱い地域」であることは事実だ。

 「他地域の方からは、東海エリアは(KDDIの株主である)トヨタがいて大変ですねと言われるのですが、現実にはここは『ボーダフォンが強い地域』という特徴があります。さらに踏み込みますと、東海エリアでは5〜10年前にJ-フォン東海が強かった」(榎氏)

 携帯電話業界に詳しい読者ならばご存じのとおり、J-フォン東海はマーケティングの巧みさに定評があった。早期から家族割引サービスを導入して料金面でのメリットを強く打ち出し、サービスエリア展開でも当時「ドコモのmova」に一泡吹かせた経緯がある。

 「当時のmovaでも強いエリアと弱いエリアがあったのですが、(J-フォン東海は)ドコモの繋がりにくいエリアを見つけては集中的に設備投資と宣伝を行った。当時、私はドコモ東海にいませんでしたけれど、非常にマーケティングが上手だったんだと思います。

 この(J-フォン東海時代の躍進の)結果により、ボーダフォンが今も3割近いシェアを持っている。全国ではドコモ、au、ボーダフォンの順番ですけれど、ここ(東海地域)だけはドコモ、ボーダフォン、auの順番であることが極めて特徴的なエリアですね」(榎氏)

 しかし、J-フォン東海時代の勢いは、ボーダフォン体制への移行で急ブレーキがかかり、そして10月のソフトバンクへの刷新を前にして今や見る影がない状況だ。最新の純増数はドコモ東海が1万7200、au中部が4万9000(ツーカーからの移行分含む)なのに対して、ボーダフォン東海は1300。ボーダフォンの中でも、東京、関西はもちろん、北海道と九州の純増数を下回っている。「ボーダフォン(東海)は純増シェアをほとんど取れず、ドコモ東海とauで分け合っている状況」(榎氏)である。厳しい見方をすれば、東海地域のボーダフォンは、J-フォン東海時代の遺産で食いつないでいるのが現実だ。

“トヨタのお膝元”の影響

 ボーダフォンが失速する一方で、現在のライバルとしてドコモの前に台頭してきたのがauである。全国区でもauの好調は続いているが、東海地域はさらに“トヨタのお膝元”という特殊な事情がある。

 「auとの関係ですと、東海地域にはトヨタさんがいます。そのため特に法人営業は(ドコモが)大変だというのは事実ですね。この地域にはトヨタと資本関係がある会社がたくさんありますし、トヨタが取引先という企業が非常に多い。うちの法人部門が新規契約や継続利用の営業に行くと、『いやいや、トヨタから言われているんで、申し訳ないがauに変える』という話は今でもかなりあります。MNPでは電話番号が変わりませんから、(トヨタに配慮してドコモからauへの移行は)増えると考えています」(榎氏)

 今回のMNPに際しては、トヨタは全面的にKDDI支援に回る方針であり、筆者の取材でも複数のKDDI関係者がその方針を認めている。全国的に見れば、ドコモはビジネスユーザーに強いという傾向があるが、トヨタのお膝元である東海地域では、ビジネスユーザーに強いのはauなのである。

 「ドコモ東海の法人契約でいうと、5万契約分くらいはMNPで(トヨタの)影響があるかもしれないが、それは覚悟しています。東京など他地域に行けばトヨタは大企業の1つにすぎませんが、ここでは製造業を中心にトヨタの影響力は大きい。他地域に比べて不利な点です。

 しかし契約者数の話ではなく、ドコモ東海の売り上げという視点では、我々はトヨタに感謝しています。例えば昨年はトヨタが愛・地球博を盛り上げてくれたおかげで、他地域からの観光客やビジネス客が増えて、東海地域のトラフィック収入が事業計画以上に増加しました。今後はトヨタの本社機能が名古屋に移転しますので、(トヨタ来訪者の増加による)トラフィック収入増も期待できます。一番いいのはトヨタが東海地域の経済を活性化してくれた上で、ドコモユーザーが増えるシナリオなんですけどね(笑)」(榎氏)

 トヨタによって東海地域の経済が活性化すれば、それがコアになって製造業以外の第三次産業も東海地域に引き寄せられる。そこはトヨタの好影響を受けながら、トヨタの息がかからないユーザー層であるので、ドコモ東海がユーザーを獲得できる可能性がある。トヨタのお膝元である事はドコモ東海にとって直接的には不利な要因だが、間接的なメリットもあるようだ。

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