ソフトバンクが獲得した「携帯電話ビジネスのプロ」 神尾寿の時事日想:

» 2006年08月23日 11時34分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 8月22日、ボーダフォンが、新執行役副社長 技術統轄兼最高戦略責任者(CSO)に米Qualcommの上級副社長 松本徹三氏が内定したと発表した(8月22日の記事参照)。8月24日に開催する取締役会で正式に決定する予定だという。

 松本氏は伊藤忠商事時代から長く通信業界に関わり、クアルコムでのキャリアも10年以上になる。日本における“携帯電話ビジネスのプロフェッショナル”の1人だ。携帯電話キャリアの出身者を除けば、日本の携帯電話市場に精通した貴重な“人財”である。

 筆者も何度か松本氏にお会いしたことがあるが、技術とコスト効率のバランス感覚と、市場動向の洞察力に長けた方という印象を持っている。将来を見据えて、技術とサービスを結びつけるセンスは、特に鋭い。また、口癖のように「日本の情報通信産業が名実ともに世界をリードする立場に立つべき」と話し、特に日本の携帯電話メーカーが国際競争力を得る必要性を説く。日本のキャリアやメーカーの一部関係者は、CDMA技術で巨大な特許権益を持つクアルコムやクアルコム関係者に警戒感を持った眼差しを向けるが、松本氏は「日本の携帯電話産業の発展」を真剣に考え、信念を持っている人だと思う。

人材面を強化するソフトバンク

 その松本氏が、ソフトバンクモバイルの副社長になるインパクトは大きい。

 筆者は以前から、ドコモやKDDIと比較して、ソフトバンクの経営陣に携帯電話ビジネスのノウハウと経験が足りない部分に不安を持っていた。しかし、この分野の識見に富む松本氏が副社長・CSOとして加わることで、社長である孫正義氏の理想を、具体性のあるビジョンやプロセスにすることが可能になるだろう。

 実は昨日、筆者は松本氏からソフトバンクに転職する旨の挨拶状をいただいた。プレスリリースではないので直接の引用は差し控えるが、松本氏は当面、「中長期戦略の策定」に注力するという。そして、その視線の先には、メディアやネットの未来像があり、一方でネットワークインフラや端末のコスト構造についてのリアルな感覚がある。松本氏がソフトバンクで辣腕を振るえば、同社が将来、携帯電話業界でも「風雲児」になれる可能性が出てきたと思う。

 松本氏だけではない。ソフトバンクは今、直接・間接的に、携帯電話ビジネスの経験を持つ優秀な人材を集めている。彼らの力が、いい形でボーダフォンの人材と混じり合えば、そこから起きる「変化」はドコモやKDDIも無視できないものになるだろう。

最大の課題は「目前のMNP」

 むろん、ソフトバンクの前には明るい未来だけがあるわけではない。目下の、そして最大の課題は、目前にせまった番号ポータビリティ(MNP)だ。ソフトバンクの変化が具体的な結果になるには、あと1年は必要だ。しかし、MNPは今年10月24日には始まる(8月9日の記事参照)。各種調査結果が示すとおり、ボーダフォンユーザーは最もMNP利用意欲が高く、ドコモ東海のインタビューに端的に表れたとおり、ドコモやKDDIにソフトバンクのシェアは狙われている。

 松本氏を筆頭に、人材を強化したソフトバンクの力が、携帯電話業界の黒船になれるかどうか。MNPの趨勢も含めて、期待を持って見守りたいと思う。

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