IEEE802.20は本当に標準化されるのか──クアルコムの取り組み(1/2 ページ)

» 2006年09月07日 18時42分 公開
[園部修,ITmedia]

 クアルコムジャパンは9月6日、米Qualcommのエンジニアリング部門上級副社長、エドワード・G・ティードマン氏の来日に合わせて、同社および米Qualcommが取り組んでいるIEEEや3GPP、3GPP2での標準化活動の進捗について紹介するセミナーを開催した。

 ティードマン氏は、米国における標準的なデジタル携帯電話方式「IS-95」(cdmaOne)の策定にも参加した、Qualcommで最も古手のエンジニアで、現在はQualcommの技術戦略を取り仕切る重要なメンバーの1人だ。

IEEE802.20の審議は6月から一時中断

Photo 米Qualcommのエンジニアリング部門上級副社長、エドワード・G・ティードマン氏

 同氏はまず、「IEEE802.20」(以下802.20)の標準化プロセスの現状を説明した。802.20は、Qualcommが積極的に推進しているワイヤレスブロードバンド向けの無線通信技術だ。移動体で利用することを前提に開発した技術で、Qualcommが提案した技術が数多く採用されている。インテルなどが中心になって推進している「モバイルWiMAX」(IEEE802.16e)の対抗規格として紹介されることも多いが、モバイルWiMAXはもともと固定通信に端を発する無線LAN(Wi-Fi)の進化系、WiMAX(IEEE802.16)に移動体で使うための技術を付加したものであり、出自はだいぶ異なる。

 802.20の技術的な特徴についてはすでに報じられているので(6月3日の記事参照)、ここでは詳しく触れないが、周波数利用効率が高いため、セクタースループットも高い、リンクバジェットがモバイルWiMAXより大きく、セル半径が大きく取れる、EV-DO Rev.Aと同等のQoS制御ができ、VoIPでの音声通話が問題なく利用できるといった特徴がある。

 ただ802.20の作業部会での審議は、モバイルWiMAXの標準化を行ったIEEE802.16(以下802.16)作業部会での審議と比べて進捗が遅かった。技術や方式に関して、要求条件や目標とする仕様が高度だったことに加え、「特定の陣営による独占的支配」や「審議のプロセスに関する透明性の欠如」などが指摘され、たびたび議論が起こったほか(5月15日の記事参照)、審議に参加したメンバーからのクレームなどもあって、2006年6月には標準化作業が一時中断されたのだ。

802.20の標準化作業は2007年前半頃に最終投票へ

 この経緯についてティードマン氏は「グループの中で衝突が続いていたため、なかなか議論が進展しなかった」と話す。「そもそも802.20の作業部会は2002年12月に設立されたが、同時期にIEEEは固定向けの802.16をベースに移動体をサポートするための拡張を盛り込んだ802.16eも認めた。802.16e陣営は、802.16の上位互換の無線インタフェースを策定するはずだったのに、結局互換性のないインタフェースを作ることにしたため、802.20との衝突が生まれてしまった」。

 2005年9月に、802.20は基本仕様の提案を募集するところまでこぎつけ、11月の会合ではシステム提案を元にFDD方式とTDD方式で最終的な統合提案を示すことができた。しかし、「この直後に802.20作業部会の参加者が3倍以上にふくれあがった」(ティードマン氏)。その理由は、IEEEの投票が有権者1人に1票を与える方式を採用しているためだ。多くの標準化機関は1企業が1票を投じるが、IEEEでは有権者を多く抱える企業が投票を有利に進められる。「多くの参加者は、802.16eをサポートしていた企業の中でも、802.20が先に進むのを恐れた企業に所属している人たちだった」とティードマン氏は指摘する。

 そんな状況の中でも、2006年1月に提案は1つにまとめられ、参加者の投票に持ち込まれて、80%の賛同を獲得して基本仕様が決まった。その後の書面投票(Letter Ballot)では、75%以上の賛成を得る必要があったが、2006年3月に行われたドラフト仕様の書面投票では79%、5月に行われた2回目の書面投票でも85%の賛成を得た。最終的にはスポンサー投票(Sponsor Ballot)と呼ばれる手続きを経て標準化される訳だが、標準化プロセスをなんとかして邪魔しようとするコメントがたくさん入っていたために、作業部会は混乱状態に陥り、6月から10月まで、審議を一時中断させられるという事態に持ち込まれてしまったのだった。

 しかしティードマン氏は「11月に作業部会が再開したら、速やかにスポンサー投票を行うべく準備を進める予定」だという。「ドラフト仕様はほぼ準備できており、あとは最終的な回覧を行い、寄せられたコメントに対する解答を用意すればいい。現在ヒヤリングやルール付けを行っており、802.20作業部会の議長も標準化作業を前進させようと努力している」。

 スポンサー投票は2007年の前半から半ばをめどに行われる予定だ。ティードマン氏は「IEEEの歴史の中で、スポンサー投票が失敗したという例はない」と話し、おそらくこの頃に標準化が完了するという見通しを示した。

結果的にはプラスに作用した3カ月の中断

Photo クアルコムジャパン社長の山田純氏

 クアルコムジャパンの山田純社長も「今回の3カ月の中断は、802.20作業部会のことを考えればむしろよかったのではないかと思っている」と話す。「見え見えな妨害工作があって、作業部会自体が正常に機能しないような状態になっていた。いくつかの会社からアピールという形で標準化プロセスの見直しを要求されていたが、それらは却下され、仕様策定の期限も年末までだったものが半年延長された。IEEEの方で妨害も牽制してくれるようになった」

 11月に審議が再開されれば、もはや人だけ送り込んで技術的な議論をせず、ただ反対を唱えるような状況にはならないだろうと見ているという。「最後の承認の場で人が集まって、ただ反対というのは理不尽なので、それはもう起こらないと考えている。仮にそれが起こるなら、アメリカの自由主義も地に落ちたと考えられる」(山田氏)

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