変革期に向かうモバイル業界、オペレーターは何をすべきか──Nokiaのワイリー氏Nokia World 2006

» 2006年11月30日 21時39分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
Photo Nokia ネットワークス事業部上級副社長兼ジェネラル・マネージャー、サイモン・ベレスフォード・ワイリー氏

 Nokiaのパートナー向けイベント「Nokia World」で同社のネットワークス事業部の上級副社長兼ジェネラル・マネージャー、サイモン・ベレスフォード・ワイリー氏が基調講演を行い、通信業界に起きているトレンドを分析した。

 「業界は転換期を迎えており、オペレーターはさまざまな課題に直面している」とワイリー氏。競争の激化やトラフィックの増加、インターネット企業の参入などといった変化が起こっており、既存のテレコムモデルでは生き残りが難しくなってきた──というのが同氏の見解だ。

これだけある、変化に伴うモバイル業界の課題

 実際、オペレーターの成長は鈍化している。全体の売上高は引き続き増加しているものの、1加入者あたりの売り上げはフラットだ。ただ、その内訳は変化しており、エンタテインメント・メディアや広告、トランザクションサービスなどの比率が音声を侵食するような格好だ。ワイリー氏は固定網プロバイダの売り上げ構成の推移と比較しながら、「この流れは(ブロードバンドが固定音声の売上げを侵食した)固定網の世界に似ている」と指摘する。

Photo 収益の推移を示す図

 その一方で、音声とデータの各トラフィックは増加している。売上高やARPUがフラットになり、競争激化の中で避けられない顧客の獲得やそれを維持するためのマーケティング支出が増える中、オペレーターはこれまで以上にネットワークの運用や管理を効率化する必要がある。対応策としてはシステムの中央集権化、自動化、アウトソーシングの3つの方法があり、これまでのところアウトソーシングへの関心が高いという。

 オペレーターの課題はまだある。1つは次々と登場する新技術の取捨選択だ。HSUPAMBMS(Multimedia Broadcast and Multicast Service)、IMS(IP Multimedia Subsystem)、4GことLTE(Long Term Evolution)などの次世代無線ネットワーク技術が開発されているが、さらにWi-Fi、WiMAXなど固定網側から発展した無線技術もあり、固定網サービスを提供するにはDSLなどの技術も必要になる。どの技術を、いつ、どのタイミングで実装するかが簡単な決断ではなくなってきた。

 高速化するネットワークにも課題がある。3Gはすでに普及期に入り、データ伝送速度が向上するHSDPAは現在、4カ国7社のオペレーターがサービスを開始している。来年以降はHSDPAサービスが本格化すると予想され、それを定額制で提供するオペレーターが増えるとワイリー氏は予想する。

 だが帯域の広がりは、米Googleや米Yahoo!といった固定網インターネット企業の参画を促進し、これが新たな脅威になるという問題も生み出す。例えばSkype Techonologiesの加入者は1億3000万人に達しており、これはグローバルに展開するオペレーターの顧客数と同じレベルにまできている。このようなインターネット企業がモバイル業界に参入するにつれ、インターネットのビジネスモデルの波も押し寄せてくるわけだ。

 Skype、Google Talkなどのインターネットベースの固定音声サービスは無料が原則。最初にコミュニティを作り、収益に変えていくというモデルだ。収益は、広告、サブスクリプション、トランザクションをベースとし、既存のテレコム企業のビジネスモデルとは異なる。

Photo モバイル業界に押し寄せるインターネットのビジネスモデル

 Nokiaは今年、独Siemensのネットワーク事業と合弁会社の立ち上げを発表しており(8月26日の記事参照)、来年初めにNokia Siemens Networksが立ち上がる計画だ。顧客数は固定、無線ともに300社を数え、無線では2位、固定では3位のネットワークインフラ企業となる。ワイリー氏は、その新会社を率いることが決定している。

 Nokia、および新会社では、このようなトレンドを踏まえ、固定/無線でのブロードバンド、IPテレビ、モバイルテレビなどのインターネット・マルチメディア、ホスティングなどのサービス、効率化ソリューションの提供、VoIP、IMSを実現するユニファイドコア・課金ソリューションなどを提供する計画だ。

自社の検討課題を、早急にチェックリスト化すべき

 ワイリー氏は「オペレーターはリポジショニングを図るべきだ」と提言する。自社の資産は何で、将来は融合型のプロバイダを目指すのか、メディア型企業を目指すのか、そしてインターネット(とVoIP)の波を受け入れるための提携などを進んで検討すべきだという。

 ビジネスモデルでは、サービスのバンドル化や定額制、広告モデルなど新しいモデルを実験し、IPの導入のためにIMSを実装することに加え、固定、無線でブロードバンドサービスを提供し、コスト効率を高めることを検討すべきとした。そして、このような“チェックリスト”をもとに、戦略的な決断をなるべく早急に下すことを促した。

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