多くの布石が打たれたソフトバンクの春商戦モデル(後編) 神尾寿の時事日想:

» 2007年02月01日 00時05分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1月25日、ソフトバンクモバイルが春商戦向けの新モデル発表会を行った(1月25日の記事参照)。詳しくは前編でも触れたが、今回のラインアップは今までにも増して店頭での訴求力を重視したものであり、家電量販店重視の姿勢が伺えるものだった。しかしその一方で、ソフトバンクは春商戦に向けて、ビジネス市場を意識した端末・料金も投入した(1月25日の記事参照)。この部分も注目である。

 まず、端末を見てみよう。今回の春商戦モデルで、ソフトバンクは法人市場向けのスマートフォン「X01NK」だけでなく、よりスタンダードな「813SH」「813SH for Biz」を発表した。813SHと813SH for Bizは、音声とメールが主要ニーズとなる幅広いビジネス層に向けた端末であり、法人顧客やビジネスコンシューマーに訴求しやすいモデルになっている。さらに量販モデルのPantoneケータイ「812SH」の兄弟機として、端末の調達コストでボリュームメリットが出せるのもポイントだ。

 現在のビジネス市場、特に法人顧客のニーズは「音声とメール」といった基本機能が中心であり、それに加えてセキュリティが重視され始めている段階だ。さらに端末価格の安さを求める声は、コンシューマー市場以上に強い。813SH/813SH for Bizは、それらの要求に応えやすい端末になっている。

 今回、ホワイトプランに追加されたオプションプラン「Wホワイト」も、コンシューマー市場だけでなくビジネス市場にも訴求できる内容だ。

 まず、従来のゴールドプラン/ホワイトプランからのソフトバンク同士の音声定額は、ウィルコムの音声定額と同様に法人の社内通話やビジネス通話需要を獲得しやすい。特にドコモとauがフォローしきれていない中小企業向けのサービスとしては、強い訴求力がある。ソフトバンクの音声定額は夜間に適用外の時間があるが、ビジネス市場向けならばそれが弱点にならないのもポイントだ。

 さらに今回のWホワイトでは、月額980円の付加料金で10.5円/30秒の通話料金になる。このレートは他社では9000円台の料金プランと同等であり、はっきりと安い。むろん、Wホワイトには無料通話分とその繰り越しサービスがないが、ビジネス市場での利用を考えるならば、その“シンプルさ”の方がかえって好まれる可能性が高い。ホワイトプランとWホワイトの組み合わせは、コンシューマー市場よりもビジネス市場の方がインパクトがある。

最大のボトルネックは「サービスエリア」

 Pantoneケータイの華々しさに目を奪われがちだが、今回の春商戦の発表は、ソフトバンクのビジネス市場獲得に向けた布石、宣戦布告という見方もできる。端末と料金プランは、十分にこの市場で競争力がある。ソフトバンクの孫正義社長によると、今後は買収した旧日本テレコムの営業力などを活用しながら、法人市場向けの営業体制を強化していくという。

 しかし、その一方で、魅力的な端末や料金プランだけでは一気にシェア獲得ができないのも、ビジネス市場、特に法人市場における特徴だ。この市場の低コストへのニーズは確かに強いが、それ以上にサービスエリアやブランドへの信頼が重要になるからだ。

 ソフトバンクはサービスエリアについて、当初は年度内に4万6000局まで増やすとしていた3G基地局敷設が「「進展としては着々と前に進んでいるが、2〜3カ月、4〜5カ月の遅れはあるかもしれない」(孫正義社長)とトーンダウンさせている。携帯電話基地局の新設は年々難しくなっており、最近は建物の耐震強度への意識の高まりから基地局設置を拒否するビル/マンションのオーナーや住民が増えている。「ドコモ、auの基地局設置が進み、未だ手付かずの物件は(オーナーや住民との)交渉が難しいところばかり」(大手キャリア幹部)という声もある。ボーダフォン時代に3Gのエリア整備で出遅れたソフトバンクは不利な状況である。

 だが、逆説的にいえば、3Gのサービスエリアでドコモとauに追いつき、サポート体制の強化を行ってブランドへの信頼を培うことができれば、ビジネス市場でのソフトバンクは、ドコモやauにとって無視できない存在になる。端末と料金プラン設定のセンスはよく、その影響力はウィルコム以上になるかもしれない。

 ビジネス市場に向けてソフトバンクが打った布石が生きるかどうか。それは今後、ソフトバンクがどれだけ早くエリアの整備とブランドイメージの改善ができるかにかかっていると言えそうだ。

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