最近、携帯キャリア各社は、携帯電話の法人利用にとくに力を入れている。KDDIも例外ではなく「OFFICE WISE」などの商品が2004年末にスタートしている。「単に音声通話だけでなく、携帯ならではの利用法、ソリューションを提供していきたい」とKDDI モバイルソリューション国内営業本部本部長の湯浅英雄氏は語る。

固定とモバイル、両方を持っている強み

ITmedia 2004年の携帯電話業界はどんな年だったでしょうか。

湯浅 本当にいろいろなことのあった、激動の年だったと思います。一番大きいのは、直収電話がいよいよスタートしたこと。もう1つは、目に見えて法人の携帯利用が進んだ年だということですね。

 まず直収電話ですが、私はもともと、4年前までは固定網の部門にいて「マイライン」などをやっていました。3年前にauに移ってからモバイルの法人営業をやるようになったのですが、「また戦争が来たな」という思いでいます。モバイルでも、固定網で起きたことを繰り返すことになるのではないか、つまり、マーケットが広がる戦いではなく、勝っても負けてもお互いシュリンクしてしまうという厳しい戦いになりそうです。ただ本格的な戦いは来年以降でしょう。

 今後も固定電話がなくなることはないでしょうが、個人が使うのはモバイルに変わっていくでしょうね。拠点間は固定でも、そこにぶらさがる端末は、9割モバイル、1割固定になるのではないかと考えています。「固定とモバイルをセットにして使う、こういう方法がありますよ」と提案していきたいですね。モバイルと固定を一緒にできるのはKDDIグループの強みですから、必死にやりますよ。

ITmedia 法人の携帯利用についてはいかがでしょう。

湯浅 「携帯は、コンシューマーにはだいぶ行き渡ったので、今度は法人だ」といわれて、もう3年くらい経ちます。法人系のサービスはいろいろ出てきていたけれど、なかなか普及しませんでした。しかし来年は確実に来るだろうと考えています。


「法人市場は、全体の契約数が実はよく分からないのです。数字を明確にしたうえで、来年は単月のトップを取りたいですね。コンシューマにおけるauのように、法人でもトップを狙います」

 我々のいるモバイルソリューションは、今年の4月1日にできた部署です。ここまでやってきて、来年はいよいよ花を咲かせるかなと思っています。いい兆候だと思うのは、auが個人ユーザーに対して持っている強いブランド力が、法人にも影響してきているのを感じる点ですね。法人にブランドやデザインは関係ないと思われるかもしれませんが、法人契約でも使うのは個人です。自分が個人で使っているものは、法人でも愛着や親しみを持って使ってもらえますから、個人へ普及することは、法人への展開を考えても、とても重要だと思います。

ITmedia ブランド力が一段と増したということでしょうか。

湯浅 ええ、そうです。私自身も各社を回っていて、それをとても感じます。いろいろな会社の役員さんにお会いすると「私の子供も使っているよ」という話が必ず出ます。「家族割」とか「学割」「ダブル定額」といった言葉が、先方から出てくるのです。これは2、3年前にはなかったことで、こういう波は生かさなくては、と思っています。私自身は、ソリューションの話をしに行ってるんですけどね(笑)。

ITmedia ソリューション提案は、どういう方針で進めていくのでしょう?

湯浅 まず大企業に採用してもらう、そして料金競争はしない、この2つが我々の方針です。この9カ月、数千社を直販で回り、強い手応えを感じています。

ITmedia 大企業向けにソリューションを提供するというと、ライバルはNTTドコモになるのでしょうか。

湯浅 そうですね。今まではドコモさんの独壇場でした。我々はここにきてようやくコンペができるようになった、という状態ですね。

将来数年をかけた戦いは、2005年が本番

ITmedia 御社にとっての2004年、そして来年の展望をお話しいただけますか。

湯浅 いわゆる「モバイルセントレックス」、我々は「エリア内通信」と呼んでいますが、来年これが大きな形で、実績となって出てくるだろうと思います。現状でも具体的な提案を100社近くしていますから、それがかなり進むでしょう。

 「内線がキー」という流れは間違いないでしょう。今までは外回りの人しか携帯を使っていませんでした。これは一般的に社員数の3割くらい。あとの7割の人は、携帯は個人で持っているもので、固定電話を使っていたことになります。外回りの人だけが使うものだった携帯を、内勤の人も社員全体で使うようになることで、市場は3倍に拡大するわけですから。

ITmedia 3倍は大きいですね。そこを取るために打ち出していく御社の強みは、どういったところになるでしょうか?

湯浅 我々が実際に企業を回って分かったことは、ソリューションとして携帯を使っているところは、大手を含めてもほとんどないということなんです。携帯の使い道はほとんど音声通話とメール、あとはカード型のデータ通信端末を使っているくらいです。

 OFFICE WISEももちろんそうなんですが、それに加えて例えばGPSやグループウェアと組み合わせるなど、いろいろな提案ができるところが我々の強みだと考えています。とくに大きいのは、BREWを使ったサービスですね。この市場は来年から立ち上がると見ています。

ITmedia BREWを使ったサービスというと、具体的にはどのあたりでしょう。

湯浅 来年4月以降、個人情報保護法の改訂でセキュリティがかなり厳しくなります。ちょうど先週発表した「ビジネス便利パック」では、携帯電話を落とした場合にアドレス帳などをリモートで消せます。これは我々しかできないサービスです。法人で使う場合、セキュリティの観点はとても大切なことですね。お客さんの情報などが入っている端末を落として、それが漏れたりしたら、大変な信用問題になってしまいますから。しかもそのサービスを一台105円と非常に安価に提供できる。この価格なら確実に導入して頂けると思っています。こういうところからステップアップして、あとは位置情報とかグループウェアなどに進んでいくことになるでしょう。

 今までの法人用ソリューションは、オールインワンでいいものを作りすぎたのだと思うのです。いろいろできる代わりに、敷居が高すぎた。コストにどれだけ見合うか、という考え方でいくとどうしても「そこまでのものは要らないよ」という話になりがちだったんですね。まずはコストを下げて、シンプルなものから導入して頂き、徐々にステップアップしていくのがいいだろうと考えています。

 通信はコストで見る人が多いんです。単に音声通話だけを競うと、すぐに価格競争になってしまいます。しかし、通話料の安さを競うのはいつでもできることです。コストは高くなるので厳しいですが、まずはソリューションからしっかりやっていかねばと考えています。

ITmedia ソリューション提案は今後も、大企業だけが中心なのでしょうか?

湯浅 いえ、中堅層のお客様には、もっと敷居が低くて使い勝手がいいものや、セキュリティ商品を提案していきたいですね。たとえば便利パックのいいところとして、「商談中」「休憩中」といった登録ユーザーのステータスが、一目で分かるという点があります。緊急の用事があるときは、ポンとだれかをピックアップして連絡する、こういう使い方なら、シンプルで使いやすい。グループウェアを入れて、みんなでスケジュール調整して……というのは難しくても、最初のステップはこういうシンプルなところから入って、徐々にもっといろいろなソリューションを提案するという形を考えています。通話だけしか携帯を使っていないところに、ソリューション提案をするのは難しいので。

ITmedia 導入にはどのような抵抗があるのでしょう。

湯浅 「難しそう」「面倒」。そして大きいのはコストですね。携帯は固定より高くなってきていますから、そこに新しいものをつぎ込むメリットはなかなか感じてもらえない。コストがかからなければいいよ、とたいてい言われてしまいます。

ITmedia 無線LANの端末への搭載はどうでしょう。ビジネス向けには相性が良いのではないかと思いますが。

湯浅 モバイルセントレックスで使ってもらおうと思ったら、無線LANはいいと思います。規模が大きいと難しいですが、中規模くらいだと相性が良いでしょうね。実際にはまだ使ったことがないので正直私も分かりませんが、今後チューニングをしていって、そこにも目処をつけて、早急に我々もやっていきたいですね。

ITmedia 2005年の通信業界はどのように変わっていくとお考えですか?

湯浅 NTTさんも含めて、固定は直収電話一色ではないでしょうか。ソフトバンクさんがモバイルに参入するという話もありますが、参入するとしてもしないとしても、モバイルのほうは、どこもナンバーポータビリティに向けた熾烈な争いが始まるでしょう。今のうちに駆け込んでおかないと、2006年以降来ても間に合いません。将来数年をかけた戦いは、まさに2005年が本番になるでしょうね。

[ITmedia]

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