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大量のICタグをいかに生産・破棄するのか月刊コンピュートピア(2/2 ページ)

身の回りのあらゆるものにICタグが添付され、ユビキタス環境を実現する――。近い将来到来すると予測されているICタグの姿だ。多種多様な面で企業の競争力向上に寄与すると見られている。反面、このような将来像の実現には無数のICタグをいかに効率的に生産・廃棄するのかという問題が立ちはだかるのも事実だ。

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 欧米では、プライバシー保護の観点から消費者団体が不買運動を起こすといったトラブルが発生している。商品にICタグを付けて販売するというベネトンの実証実験計画が2003年3月に明らかになったところ、米国の消費者団体「CASPIAN」が不買運動を展開し、結果的にベネトンの実験は中止に追い込まれた。また、2003年7月には同じくCASPIANの反対を受け、ウォルマートとジレットが共同で実施を予定していた、カミソリ刃にICタグを添付して販売する実験が中止となっている。このような機運が日本でも高まれば、ICタグの普及を阻害する要因にもなりかねない。

 デジタル社会では情報を容易に複製、伝達できることから、個人情報の不正な取り扱いに起因する“プライバシー侵害”の頻発が危惧される。OECD(経済協力開発機構)は1980年、プライバシー情報の扱いに一定の制限をかけるべく、「個人情報保護8原則」を策定(表1)し、日本でも2003年5月には「個人情報保護法」が制定されている。今後は同法の下、ICタグの利用ガイドラインの詳細が経済産業省や総務省などにより進められていくはずだ。

 総務省の報告書では、「各業界共通のプライバシー保護のガイドラインを策定し、業界ごとの実態に即してルールを確立することが望ましい」と提言されており、具体的には、「個人を特定できる情報をICタグに格納しない」「商品購入後にICタグの機能を停止するか否かを消費者が選択できる環境を整える」などの施策が考えられている。

 他方、ICタグの廃棄を「環境の保護」という側面から捉えると別の問題が浮かび上がってくる。将来、ICタグは現状よりもはるかに大量に生産され、最終的に廃棄物となる。それらが環境に悪影響を及ぼす可能性がないと果たして現段階で言い切れるのだろうか。

環境にやさしい素材選びが必須

 アパレル業界の実証実験では値札状のICタグを販売時に回収し、再利用を図っている。ICタグを再利用するために規格を設け、再生価格を低減することで、中古のICタグを企業に積極的に利用してもらうための環境を整えようという動きも一部では出始めている。 確かにこの手法は廃棄物の削減には役立つが、廃棄物を完全になくせるわけではない。

 現状を見ると、小型のICタグは可燃物として処理されているケースが多い。しかし、ICタグのアンテナ部分は金属であり、不燃物として扱っても誤りとは言い切れない。ICタグが大量に消費される時代になる前に、環境問題を視野に入れた廃棄処理についてのルール策定が求められている。そこで注目されるのがICタグの素材だ。

 すでに一部のメーカーは、鉛・カドミウム・有機スズなどの有害物質を含み、燃やすと有害性の高い塩化水素や一酸化炭素が発生する塩化ビニールをICタグには使わないといった取り組みを進めている。また、IC自体も鉛を含まないハンダを使ったものに急速にシフトしている。タグの小型化・低価格化の手段として有機半導体材料や特殊磁気材料の電子回路を印刷することで、無線ICタグとして利用する技術の研究が進められているが、これが実用化すればICタグの素材の種類が減り、それだけ廃棄処理を行いやすくなることが見込める。もちろん、ICタグが小型化するほど、製造にあたり素材が少なくて済み、環境にやさしい製品となる。

 しかし、前述したように、ICタグの廃棄についての議論はほとんど行われていないのが現状だ。ICタグはさまざまな業界で多様な目的のために利用されるだけに、リサイクルを目的としてICタグの回収、さらに廃棄というプロセスを確立するために、多くの問題を乗り越える必要があるはずだ。果たして、ICタグの本格普及の前にその体制を確立できるのかどうかは大いに疑問が残るところでもある。

 ICタグを製造したメーカーには製造者としての責任が発生する。また、ICタグを利用する企業にも責任が生ずるだろう。現状ではばら色の未来に向けての議論ばかりが目につくが、地に足の着いた現実的な議論を行うべき時期にさしかかっている。


OECDの個人情報保護8原則
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