総務省は「言論の自由の心臓に短剣を刺した」――米セキュリティ専門家
住基ネット侵入実験のプレゼンを中止させられた米セキュリティ専門家は、「政府による思考、意見、言論の検閲を許すべきではない」と裁判官に訴えた。(IDG)
米セキュリティ専門家が1月25日、東京地裁で意見陳述を行い、日本政府は言論の自由の心臓に短剣を突き刺したと非難した(1月25日の記事参照)。
米ボストンのSecurityLab TechnologiesでCTO(最高技術責任者)を務めるイジョビ・ヌーワー氏は、総務省が同氏の住基ネットに関する発表を検閲したとして3000万円の損害賠償を要求している。
昨年11月に総務省を被告として提出した訴状で、ヌーワー氏は、同省は同氏のカンファレンスでのプレゼンをやめさせたと申し立てている。同氏はこのプレゼンで、住基ネットのセキュリティに関する懸念を明らかにしようとしていた。同氏は、日本国憲法の下で自身の権利を守るために訴訟を起こしたとしている。
住基ネットは日本国民ほぼ全員の氏名や個人情報を含む全国規模のデータベースネットワーク。これは2003年の立ち上げ以来、特にセキュリティをめぐって物議を醸している。
ヌーワー氏は、昨年長野県に住基ネットのセキュリティテストを依頼された3人の専門家のうちの1人。この専門家らは同県の管理するシステムの一部において、サーバの侵入に成功した。ヌーワー氏はプレゼンでこの実験について説明するつもりだった。
同氏は25日に地裁で読み上げた陳述書の中で、総務省は同氏自身とカンファレンス主催者に圧力をかけ、同氏が演台に上る直前に講演を取りやめさせたと述べている。同省は講演への反対について直接話し合いたいという要求を無視し、この土壇場での講演中止に至ったと同氏は説明している。
弁護士の清水勉氏に付き添われ、地裁の3人の裁判官の前に出たヌーワー氏は、総務省側の9人の弁護団の視線を受けながら、およそ5分間陳述書を読み上げた。
「民主主義において、政府による思考、意見、言論の検閲を許すべきではない」とヌーワー氏は裁判官に語った。
「憲法を無視しようとする動きには、常に異を唱えなくてはならない。そうしなければ、憲法は言葉と署名の入ったただの紙きれに、取るに足らない文書になってしまう」(同氏)
ヌーワー氏はまた、総務省が同氏の最初の申し立てに対して1月18日に出した回答の中で、同氏の講演を一部検閲したことを既に部分的に認めていると主張した。
「総務省はこの国の言論の自由の心臓にわずかに短剣を刺した」とヌーワー氏は法廷で述べた。
長野県は同氏のプレゼンに何ら懸念を示さなかったし、10年の経験を持つセキュリティ専門家として、プレゼンを行う際に求められた機密保持契約について理解していたと、同氏は裁判所の外での取材で語った。
陳述の間、同氏は繰り返し、同氏は日本政府の権力に対して自分の権利を守ろうとする1人の人間だとの意見を述べた。
「総務省が私に対して弁護士の軍団を用意していたのが面白いと思った」と同氏は取材に応えて話した。
総務省側弁護団は3月22日に冒頭陳述を行う予定だ。25日の電話取材に対して、同省の弁護士はコメントを断った。
双方は8月末までに審理に必要な証拠を集めるだろうと清水弁護士は裁判所の外で語った。
「手元に配られたカードでできる限り最高の手を出す」と同弁護士は話した。
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