第4回 オフショア開発委託の具体的手順と留意点:寄稿
企業が情報システム開発をオフショア委託することを考えたとき、具体的にはどのようなアプローチをとるべきなのか。オフショア開発大手のTATAに寄稿してもらう。
オフショア委託の先進国である米国には、10年以上にわたる豊富な経験を基にしたオフショアを失敗させないための秘訣や教訓が蓄積されている。一方、日本におけるオフショア委託に関するノウハウは、個々には蓄積されているものの、共有されるには至っていない。それが、導入企業にとってのオフショア委託への漠とした不安の背景ともなっている。
米国企業も当初インドITベンダーへの開発委託で、ビジネス習慣の違い、コミュニケーションギャップ、異文化理解で苦労した経験を持つ。経験を積むことで、学習曲線に沿った相互理解、信頼関係の構築が進み、今日では国際競争力強化、高収益達成においてオフショア開発は欠かせない手段となっている。
米国では、ベンダーの紹介から事務手続きまで、一括して請け負うオフショア専門企業も多く出てきている。また、海外ベンダーの格付けも行われている。ユーザー企業にとって、オフショア委託コストの軽減につながるばかりでなく、信頼できるベンダー選びが容易となる。
経営文化が異なるとはいえ、米国の経験は、日本企業がオフショア委託を成功させる上での貴重なヒントになるかもしれない。
オフショア開発委託の実行手順
オフショア委託の決定からベンダー選び、交渉・契約を経て、委託の実施(その後の管理やモニター)に至るまでの流れは以下のようになっている。
ベンダー選定の際の留意点
共通の目標に向かって信頼できるベンダーを見つけられるかどうかは、オフショア委託を成功させる上でのカギとなる。有力なオフショア委託先としては、インド、中国、アイルランド、フィリピン、イスラエル、ロシアなどが注目されている。優秀なIT人材を豊富に抱えている国が有望と言えるが、政情や法体制、政府の優遇策なども考慮すべきである。ベンダー選びのポイントとして以下の点が挙げられている。
- ベンダー企業の持つスキルセット、経験(成功事例)、技術インフラ、言語能力、知的所有権への保証体制、品質管理プロセス、守秘義務への対応、余剰人員状況を確認。
- ベンダーのバックアップ体制、危機対応能力の調査
- 雇用政策、定着率の確認。(高い転職率のベンダーは避ける)
オフショア開発の際の留意点
- 基本方針決定時の留意点
オフショア委託の決定自体は容易であるが、どの業務をどのように、またなぜ委託すべきなのか、経営の根幹に係わる重要事項は周到に検討すべきである。また、自社で保持すべきITのコアコンピタンスを見極め、インソースとアウトソースを切り分け、基本方針を決めることも必要になる。
ベンダーに委託する要件を明確に定義することは重要で、プロジェクト全体の成否に係わる。具体的要件を盛り込んだ提案要請書(RFP)はできるだけ明確にする。要件定義が曖昧であると、後のドキュメントの品質低下につながる。
- 契約締結時の留意点
正式の契約書には、ベンダー側の役割、責任、スケジュール、支払い方法、品質水準について明記する。仕様との合致義務、品質保証、製品・サービスの所有権について明記する。また、SLA(サービス・レベル・アグリーメント)として、最低限のサービスレベルにつき定義しておく。何をいつまでにどのように行うのかを明確に定めておく。
- 業務開始時の留意点
業務が実際に開始されると、ベンダー側の技術者を委託側企業へ送り込むことになる。その際、両者のチームワークが機能するよう意に、思疎通と人間関係の構築には、細心の配慮が不可欠だ。双方の文化、言語、コミュニケーションの食い違いは、都度解決しておく。
オフショアの委託業務はベンダー任せにすべきでない。モデレーター(あるいは経験のある専属のPM)を任命して、ベンダーとの調整、意思疎通、委託側の要求達成度、プロジェクトの進捗状況を常にモニター・監督させる。この役割は非常に重要となる。またオンサイトのベンダー側ブリッジSEの役割も極めて重要になってくる。
- 委託実行後のモニターと実績評価
ベンダー管理、フィードバックメカニズムを確立しておく。ベンダーと定期的に会う。頻繁な監査の実施、定期的なベンチマーク分析などはITガバナンスにとって有効だ。計測可能な結果が得られているのか、点検し、フィードバックして改善していく。オフショアのリスクマネジメントを万全にする。
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