古川康佐賀県知事、「自治体ITのあるべき姿」を語る:激変! 地方自治体の現実(2/2 ページ)
IT化による新規事業の創出「アジアのハリウッド構想」を自治体ITの目的の1つに掲げる佐賀県の古川康知事。同氏に自治体とITについて、また、自治体におけるCIOのあるべき姿について聞いた。
国は遅れている
ITmedia 地方分権が叫ばれ、各地でさまざまな努力が行われていますが、まだ、中央との意識のギャップは存在すると思います。
古川 国と地方の意識の違いは、たとえばパスポートの発行業務に表れています。佐賀県では発行に1週間かかっているので、受付を県庁所在地の佐賀市だけでなく、希望する市町村でも行ってもらうことにしています。住民はわざわざ佐賀市まで受け取りに来なくて済み、「佐賀市と同じに1週間で受け取ることができます」ということにしました。それだけサービスの向上になりますが、ネックは外務省のコンピュータで、平日の9時から19時しか動かないのです。延長はダメ。こんなところにも国の行政のサービス意識が欠けている面が表れていると感じます。
優しさ、豊かさにつながる「アジアのハリウッド構想」
ITmedia 古川知事は、地域振興のため「アジアのハリウッド構想」を打ち出しています。これはITを地域振興の柱にしようといういわば“攻め”の施策だと思いますが、進展状況はいかがでしょう。
古川 少しずつですが、着実に進んでいます。もともと派手な話ですので、顕著な成果が出ていないと進捗していないように感じられるかもしれませんが、この構想は一石三鳥の意味があります。
まず、IT、デジタルコンテンツについて県民の意識を高めることにつながります。わたしはデジタルコンテンツ関連を地域産業の柱にしていきたいのです。このような動きは全国各地にありますが、佐賀県から名乗りを上げ、これに適した環境を整えていくことは国全体が同様の方向に向かっていることを考えると、佐賀県にとっても絶対に損ではない話でしょう。
また、若い人に夢を与え、さらに映画、TVドラマの誘致などは佐賀県の情報発信につながり、観光戦略にも資することになります。何よりも県民の誇り、自信につながるのです。それほどお金が掛かる話でもありません。大きなイベントを行うより効率的です。
さらに障害を持つ方々の働く場、チャレンジできる場をぜひ作りたいという希望につながります。世界的な理論物理学者であるスティーヴン・ホーキング博士は、体は不自由ながら極めて頭脳明晰で活動されているのはコンピュータの力を活用しているからです。わたしの周辺にも、障害を持ちながら活躍している人々がいますが、ITはこうした方の生活にさらに役立つでしょう。障害福祉は働く場をいかに確保するかが最大の課題ですが、そのときに前提となるIT技術を身につけてもらうことは働くチャンスを広げることになります。
こうしたことを包含するのが「アジアのハリウッド構想」で、歩みは遅いが方向は間違っていません。単に何かを切り捨てる、安くするということにITがあるのではなく、優しさ、豊かさにつながり、弱い人の救済、充実のためにITがあることを分かってほしいと思います。
国の指導がなくても自分たちでどう歩くか任されるから知恵が出るのです。自分のお金を自分で使うときには、人は真剣になるものでしょう。佐賀県ではブロードバンドの普及率は全国で40位です。今回新しいCIOを公募し、来ていただいたときに、「ブロードバンドの利用率を現在の30%から50%に」「県庁のIT化を全国のトップレベルに」「県内にIT関連企業を増やしてほしい」という3か条を要請しました。
IT化により機械でできることは機械に任せ、職員はもっとさまざまなことに気づき、議論ができる風土、決定できる風土を県内に醸成したいと思っています。
「アジアのハリウッド構想」もそうした考えに沿ったものなのです。
関連記事
- 特集:激変! 地方自治体の現実
- 地方自治体の実情が調査で明らかに――あなたの住む自治体は?
- 「ベンダーの囲い込みと異常なカスタマイズがコスト格差の原因」――総務省
- 共通データベースを基盤に変化する下町――葛飾区
- 市民と行政の「共生的自治」を市民電子コミュニティーで――神奈川県藤沢市
- 経産省、政府調達におけるオープンソースの現状を紹介
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.