CIO体制が持たらしたもの――滋賀県IT統括監松田成就氏に聞く:激変! 地方自治体の現実(2/2 ページ)
民間企業においては、既に多くの企業で採用されているCIO体制。地方自治体でも、近年その重要性への認識が高まっている。全国に先駆けてCIO体制を明確化し、行政改革という位置づけでの庁内IT化を進める滋賀県の、IT統括監でありCIO補佐官である松田成就氏に、その取り組みと現状について聞いた。
予実管理で20%以上の削減を達成
明確に打ち出されたCIO体制の下、最大のテーマは県民向けのシステムと内部事務の合理化を統括した全体最適化。これは一足飛びに実現することは当然のごとく困難な課題である。
そこで2005年度、まず取り組んだのが総務事務改革だった。それも、「業務の可視化」「システム化の感覚を取り入れた見直し」という、電子化の前段階、つまり、電子化を伴わない総務事務の見直しから開始した。真のIT化のためには、単にPC的システムではなくマネジメントシステムとしての位置づけが必要だという考えに基づいての取り組みである。
具体的には、職員の能力によって生じる仕事の品質のバランスを整えるために、個々の業務のワークフローを書くという、職員には馴染みのない業務を義務化した。さらに、もともと高知県が作っていた「調達ガイドライン」を研究対象に、プロセスとインプット・アウトプットを明確にし、PDCAで回していくことを目的として、調達のガイドラインとしてだけでなくマネジメントシステムとしてのガイドラインをも盛り込んだ「調達ガイドライン滋賀県版」を作ってリリースした。さらに、システムを開発する部署から、「システム相談」を受ける体制も整えた。
実はこの「システム相談」に関しては2004年度から取り組んでいたが、その効用を明確にできていなかったため、目に見える結果を残せてはいなかった。そこで、システム相談などでの対応の統一、その結果をモニターする仕組み、前述のワークフロー提出の義務化など、仕組みを明確化したのである。その結果、当初の予定価格から、「システム相談」を経た後での予定価格で12%の削減を実現。さらに、入札方式など発注方法の改革を行い、最終的に予実比で20%以上のコスト削減を達成したのである。
今後の課題は情報セキュリティ対策
着実な取り組みを見せる滋賀県であるが、今後の課題はまだまだ山積みであると松田氏は話す。住民向けにはITによる行政の申請などの利用率をどう上げていくか? 内部的には業務の棚卸しと最適化、横ぐしを通すシステム化、マネジメントシステムを回すPDCAなど。効率的で効果的なIT化の道はまだまだ険しい。その中でも特に2006年度以降力を入れなければならない課題として、松田氏は情報セキュリティ対策を挙げた。滋賀県では2004年度から外部監査も実行し、着実にそのセキュリティ体制も整えているものの、今後いっそう高まる個人情報保護への機運もあり、その重要性は増すばかりである。そのために対策予算も既に計上したという。
CIO体制の下でのIT化は、まだまだ始まったばかりなのだ。
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