「事前の削除」で無駄を一掃する:マネジャーの教科書(3/3 ページ)
仕事を行き詰まらせ、その完了を妨げるガラクタやごみのことはクラッタ(clutter)と呼ばれる。仕事を始めるに当たって、そこで使う資料やデータをいつ削除するのかを同時に決めてはどうだろうか。
作用と効果
このテクニックの本質は、つい実行をためらってしまうクラッタの削除をより簡単にできるようにすることにある。クラッタの存在は、幾つかの問題を引き起こすからだ。
クラッタは注意を要求する。クラッタが数多く存在すれば、どれが必要でどれが不要かを見極める必要が出てくる。多数のアイデアに出くわしたときには、(それが紙であれ電子データであれ)必ずしもそれらが必要かどうかを知っている必要はない。そこには重要な情報があるかもしれない。
となると、いすを引き寄せて1つ1つ検分することになる。精神的に非常に辛い作業になるだろう。しかし、「事前の削除」を行っていたら、そんなことで辛い思いをしたり、考え込んだりすることはない。ただ、ポイと投げ捨てるだけだ。
クラッタは探しものを難しくする。クラッタが存在すると、当然のことだが、物理的に何かを探すのが難しくなる。この原理はコンピュータ上にも当てはまる。例え大容量の記憶装置と優れた索引付けおよび検索のシステムがあっても、データが増えれば、それだけ管理と利用は難しくなる。保存するデータを減らせば、範囲が狭くなった分だけ検索は速くなる。職場でもコンピュータ内部でもどこでも、残しておくものを減らせば、物事が驚くほど簡単になることが分かるだろう。それは邪魔になるガラクタがないからだ。
もちろん、必要なものを失うことがあるかもしれない。また、まだ使えたはずのものを何度も捨てることになるかもしれない。だが、クラッタに埋もれた環境でも同じことは起こり得る。本当に大切な資料は安全な場所に保管し、それ以外のほぼすべてのものはどうにかして再生できる状態にしておけば、新しく手にしたスピード処理能力のおかげで、失ったものを補ってあまりあるほどの成果を、集中力の高い状態で生み出せるかもしれない。
クラッタは未来を過去のもので埋めてしまう。記録に関する面白い事実として、記録された内容は再び参照される傾向がある。最も、後で見るために記録するのだから、それは当然だ。過去を振り返ることもあるだろう。しかし、それはどうやら人に害をもたらすらしい。
行き詰まった思考パターンを何度も繰り返すうちに、昔の欲望が現れてその方向に引きずられ、再び心が揺らいでしまうことがあるのだ。15歳の少年は宇宙飛行士になる夢を再燃させ、23歳の青年はかつての恋人のことで悲嘆にくれる。こうした幻影は、わずかなきっかけでも呼び覚まされる。だが、ひと切れの買い物リストが、昔のプロジェクトや書きかけの図面、1行書かれたきりのシナリオを完成させることは決してない。
悪い記憶が頭を悩ますものだとすれば、幸せな記憶はもっとタチが悪い。6年生のときに取ったメダル、昔のサッカー大会のトロフィー、特別なラブレター。確かに、こうした出来事は愛着や心地よさを伴って思い出されるが、そこには弊害もある。かつて想い描いた夢が叶っていない現状に対する、不思議な苦しさや不満をもたらすことがあるのだ。
意識して思い出に浸る際には注意すること。また、未来の自分に対するメッセージを送るときにも注意が必要だ。後になってそのメッセージに悩まされたくはないからだ。
実生活において
さっそく、今日使った資料で「事前の削除」を実践してみよう。頭で考えて生み出した大切な成果は、そうする必要がある限りは保管しておき、用が済んだらいつでも捨てられるようにする。結果として、古いアイデアや記憶で膨れ上がった在庫を抱え込むことにならないように注意する。そうした配慮をすれば、今日明日にすべきこと以外のものを目の前から消すことができる。
注意を向ける対象を減らすことで、今必要なものを見つけやすくなり、未来を自由に満ちたものにできるのだ。
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