オープンソースプロジェクトを支援する理由――IBMハンディ氏:Interview
IBMのLinuxおよびオープンソース担当バイスプレジデント、スコット・ハンディ氏はオープンソースプロジェクトの支援と経済的なビジネスモデルの存在を挙げながら、IBMのオープンソースに対する取り組みを説明する。
IBMのオープンソースに対する取り組みは幾つも挙げられる。近年では、Cloudscapeを寄贈しApache Derbyに貢献しているほか、Apache HTTP ServerをWebSphereで利用し、開発に協力するなど、Apache Software Foundationに対してのコミットが強く見られる。
ここでは、LinuxWorld Conference & Expo/Tokyo 2006の基調講演で講演したIBMのLinuxおよびオープンソース担当バイスプレジデント、スコット・ハンディ氏にIBMがどのような考えでLinux/オープンソースに向き合っているのかを聞いた。
ITmedia LinuxWorld Conference & Expo/Tokyo 2006の基調講演で講演されましたが、キーとなるメッセージは何だったのでしょう。
ハンディ キーとなるのは、IBMがLinux/オープンソースとかかわってきた意義であり、その裏には経済的なビジネスモデルが存在しているのだということを幾つかの事例を挙げながら解説しました。
ITmedia ここ1年でLinux/オープンソースにおけるIBMの取り組みでもっとも象徴的なものを挙げるとすれば何でしょう。
ハンディ Apache Software Foundation(ASF)が取り組んでいるオープンソースのJ2EEアプリケーションサーバ「Apache Geronimo」に対する支援でしょうか。興味深いのは、この取り組みがオープンソースに対するIBMの考えを端的に示していることです。
オープンソースのプロジェクトを成功させるには、まずコードベースの知識を十分に持っていることが必要で、それに加え、積極的にかかわり、貢献していく必要があります。しかし、Apache Geronimoについては、わたしたちはコードベースの知識というものを持っていませんでした。
このため、2005年5月にGluecode Softwareを買収したのです。GluecodeはApache Geronimoのコアオープンソース技術を基盤にしたソフトウェアとそれに付随するサービスを提供していましたが、買収によってわたしたちがコードベースでもASFに貢献することが可能となりました。
ではなぜApache Geronimoを支援するかについてですが、これはWebSphereではリーチしきれていなかった中小・中堅企業(SMB)向けのマーケットなど新しい客層を獲得するモチベーションがあるためです。GluecodeはApache Geronimoをベースとし、そうした客層をカバーしていたことも買収の意図にあります。ちなみに、Gluecodeの製品はWebSphere Application Server Community Edition(WAS CE)としてリリースし、SMBだけでなく、インド、中国など新興市場のデベロッパーも対象としています。
ITmedia IBMだけでなく、HPもDellも自社こそがLinux/オープンソースのリーダーであると口にしますが、IBMがそうであるとする根拠を教えてください。
ハンディ もちろんいろいろと見方があるとは思いますが、オープンソースの世界ではIBMがリーダーとして見られているという自信は持っています。例えば、Linuxサーバの売り上げで見てもわたしたちがほかのベンダーを大きく上回っています。また、Linuxテクニカルセンターで600名もの開発者を抱え、150ものオープンソースプロジェクトにかかわっているという事実は、HP、Dell、さらにはRed HatやNovellと比較してもかなり大きな貢献をしているものだと思っています。
さらに、IBM Global Services(IGS)でプロフェッショナルなサービスを提供している7000人もの陣容、そして、5年で12000件のビジネスを手がけていることも、顧客の視点からしてもIBMがリーダーたるポジションにいるという証明になるでしょう。
ITmedia Linuxやオープンソースを活用した事例で印象に残っているものを挙げるとすれば何でしょう?
ハンディ 基調講演でも話しましたが、日本国内の事例ですと、三菱東京UFJ銀行の事例が印象的です。オープン・メインフレーム「IBM System z9」とLinuxを組み合わせたシステムで、600にも及ぶ営業店にあるNTサーバをデータセンターに集約し、営業店端末とネットワークで結んだサーバ統合の事例です。仮想化技術でコスト削減を図りつつ、トランザクションの波にも柔軟に対応できるシステムが構築されました。安価なサーバを何台も並べて問題を解決するという方向性もありますが、分散化されたサーバのコストやその管理を考慮すれば、こうした事例が増えてくるかもしれません。
ITmedia 優先度の高いミッションは何ですか?
ハンディ Linuxに関して言うと、成長を維持し、かつ、その市場でIBMがリーダーシップを維持していくということですね。それを実現するには各業界や業種に合わせた形でソリューションを提供していくことが必要です。
オープンソースということでは、より多くの潜在顧客にアクセスするためにはオープンソースをどう活用すべきかを考えることです。売り上げを上げるというよりは、新しい市場に参入するために、新しいアプリケーションや、パートナー、デベロッパーをどのように取り込んでいくかといったモデルを構築する必要があります。
後者について例を挙げると、サーバの台数分布で見ると、ネットワークのエッジには多くのサーバが存在し、LAMPスタックが載ったローエンドのサーバが稼働していますが、こういった部分に対してもソリューションを持たなければならないわけです。
そして、そこに対するわれわれの1つの解が、米国ではすでに提供を開始した「Integrated Stack for Linux」です。これは、先に述べたWAS CEと「DB2 Universal Database Express Edition」(DB2 Express-C)をNovellの「SUSE Linux Enterprise Server」に同梱する形で提供するミドルウェアソリューションで、中小企業顧客のニーズに応える統合ソリューションであると言えます。日本でも今年の第三四半期に提供開始する予定です。
ITmedia Red HatがJBossを買収したり、OracleがNovellの買収を検討していると一部報道で伝えられるなど、Linuxディストリビューターも精力的に展開していますが、こうした動きをどう見ていますか?
ハンディ IBMとしてはワールドワイドで常に最も強力な2社のLinuxディストリビューターと関係を保つことが効果的であると考えています。この戦略がLinuxディストリビューターの動きで大きな影響を受けるとは思えませんし、現に何も影響は出ていません。もちろんローカルでは個別にサポートするディストリビューションを増やすことでニーズに応えるようにしています。アジアではAsinuxがそれにあたりますね。
ITmedia Ubuntuは第3の勢力になってくるでしょうか。
ハンディ 市場で非常に関心が高まっていますね。売り上げという観点では第3勢力となるところまでは来ていませんが注目はしています。単に注目しているというだけではなく、Ubuntuの創設者であるマーク・シャトルワース氏とも頻繁に意見交換しているほか、DB2の認定に必要なツールなども提供しています。
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