日本のITエンジニアよ、もっとリスクを取れ、もっとエンジニアリングしろ:ITエンジニア キャリアモデル策定計画 特別対談(前編)(3/3 ページ)
ITエンジニアという職業は、「3K」のレッテルを貼られたままだ。キャリアモデルを明確に示し、意識改革を促したいと考えるアイ・ティ・イノベーションの林社長とマイクロソフトの成本部長に話を聞いた。
なぜ「3K」のイメージを払拭できない?
ITmedia 「ITエンジニアは3K」というイメージをこの業界が払拭できずにいるのは、どこに原因があると思いますか?
林 冒頭にもお話ししましたが、最大の問題は認識のズレです。時代が変わっているのに、それを認識していないからです。特に経営トップを含めたマネジメント層が、どのようにプロジェクトを進めなければならないのかをきちんと理解していません。
そして、プロジェクトのメンバーも「やらされている」という気持ちの受け身の人が多く、創造的な活動だという当事者意識に欠けています。従って、業界を挙げた意識改革が大きな課題となっています。
成本 「受け身」というのはいろんなところに悪い影響を及ぼします。
新しいものを自分なりに咀嚼(そしゃく)して顧客に提案していくという能力は、ソフトウェアの世界ならずとも必要なことですし、それはやり甲斐のある、とても面白い仕事です。
現実は、「企業の情報システムをミスなく構築しなさい」と言われてしまうと、失敗しないように枯れた技術で済ませてしまいます。これを続けているだけでは、面白い仕事とは言えないでしょう。
林 15年くらい前までのシステム開発というのは、ほとんどがQCD(Quality、Cost、Delivery:品質、コスト、納期)の改善が目的でした。つまり、システムの目的は大体同じだったわけです。それがここへきて急激に多様化しています。技術的にもインターネットは遍在化していますし、すぐに使えるパッケージや半製品もたくさん市場にあります。それらを組み合わせて、多様な目的を達成することがITエンジニアには求められています。
多様なものに立ち向かおうとすると、真面目にコツコツとやっているだけでは足りないのです。企画力、創造力、構想力がより大切になってきます。ITエンジニアにはそれが求められているのに、頭の中は相変わらず、「どうすれば失敗せずに上手く行くだろうか……」と考えているのではないでしょうか?
システム自体の特性が変わってきていますので、ITエンジニアも変わらないといけません。ITのプロジェクトは、勉強したり調べたりしても、ベースになるのは2割から3割くらいしかなく、あとは自身で創造しなければなりません。新しい発想をしたり、新しいものを生み出す意欲が働かなければ、良いものは出来ないのです。
それなのに、多くのITエンジニアは、新しい概念が登場すると、「どうつくればいいのですか?」と短絡的に答えを求めたがります。
成本 新しい概念に自ら取り組むのがエンジニアの醍醐味だと思うのですが、確かに人に教えてもらおうという姿勢が目立ちますね。しかし、本来、新しい概念に取り組むことこそ、最も楽しい部分だと思います。大変ではなく、楽しいはずなんです。
リスクは避けるもの?
林 長年、セミナーの講師をやってきた経験から分かるのですが、日本のエンジニアの多くは、「リスクは避けたい」と考えています。そうではなく、リスクは「テイクしてコントロールする」ものだという考え方に変えられるかが課題だと思います。リスクを取らなければ良いものは出来ません。しかし、行き過ぎれば失敗してしまいます。それがプロジェクトなんです。
プロジェクトは初めに高い目標を立てて、納期や予算を約束します。不確実性やリスクを伴うのは自明なのです。だから、経営トップは率先して、リスクを取っていかなければなりません。
成本 「顧客に迷惑を掛けられない」ためにリスクを避けるという考え方がありますが、良い面と悪い面があると思います。
責任感があるのはいいのですが、顧客が本当にリスクゼロで無難なものを望んでいるのかは、よくよくすり合わせが必要でしょう。リスクは承知の上で先進的な取り組みをしたいと考えている顧客もいるはずです。
初めからリスクを避けてというやり方は、やはり面白くありません。ワールドカップドイツ大会での日本代表のサッカーもそうでしたよね。リスクを取らないサッカーだったように思います。確実にゴールを狙えないとシュートを打ちませんでした。もっと強引に勝負する、ミドルシュートも積極的に放つサッカーでないと面白くないんじゃないかと感じました。
(後編に続く)
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