システム完成後に問われる経営センスとは(1):企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第9回(2/2 ページ)
筋違いの対策がシステムを殺し業務を危機に陥れる。システム完成後に問われる経営の各論の第一弾として、設計管理システムを取り上げる。無駄な投資を回避するための組織的取り組みを考えてみよう。
ルール無視の運用違反、厳しい態度で修正
設計内容について生産性・安全性・環境適応性・収益性などを検討するデザインレビュー(DR)にも問題があった。DR資料やチェックリストがアウトプットされ、DRの段取りの手間が減ったが、肝心のDR会議は出席率が相変わらず悪く、機能しなかった。欠席をとがめると、代理出席が増えた。DRは極めて重要なので、軌道に乗るまで役員が毎回出席して目を光らせることにした。これは意識の問題であるが、システム運用上の問題でもある。
設計情報共有化によるメリットは、資材・製造・営業・経理などの各部門で顕著に出ており、設計手配業務も問題なく流れていたが、仕様変更管理が2つの点で機能していない。
一つは変更点管理である。例えば何らかの事情で部品変更する場合、外注先在庫も含めて変更時期を指示する必要があるが、無秩序な変更指示をしていたため旧部品の不良在庫が発生しシステムの信頼が失われた。これはシステム内容の問題であるため、思い切って在庫考慮のシステム機能を付加し、軌道に乗る迄大きな変更の都度会議で確認を義務付けた。
もう一つは、想像を絶するルール違反がまかり通っていた。A社は、自社製の機器で構成したシステム製品も手がけていた。システム製品のまとまりが悪く、納期を過ぎて苦慮した設計者は仕様変更の指示書やインプットを省略して、自ら製造現場に出かけて基板をいじることが多かった。ひどくなると顧客のテストランの現場に出かけて、こっそりと基板交換さえした。言語道断である。さらにソフトウエアが設計担当者の頭の中にだけ存在し、ドキュメント化されなかった。これらはシステム運用上の問題だけでなく、意識の問題でもあり、事の重大性に鑑みてトップは当事者を降格・減給処分とし、人事を入れ替えた。
問題がどこに起因しているかを探れ
以上の例は中規模企業の中規模設計システムだが、小企業も同じ問題を抱えているし、大企業の先進システムについても同じことが言える。先日、導入後1年を経過した大企業B社の最新の設計管理システムをヒアリングしてきたが、随所に類似の問題を抱えていた。
設計管理システムが期待した稼働をしていない場合、ただ気合で稼働させようとしたり、システム内容の問題なのに意識を問題視したりという、筋違いの対策をしてはならない。ポイントは意識・体制にあるか、システム運用(メンテナンス)にあるか、はたまたシステム内容そのものにあるかを、問題ごとによく見極め、理にかなった手を打つことである。そしてほとんどの場合、体制・人事が絡むトップの英断が求められる。
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