問題だらけの旧体制にITをはめ込む愚:企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第11回(2/2 ページ)
多くのITは「導入してからが本番」というケースが多い。ある中堅企業のSCM導入を例に、組織の意識づけと運用の方法について考えてみる。
実態無視の管理が工程管理者を苦しめる
作業計画は、前日までの部材入庫や作業進度の実績を加味して当日の1日分が示される。
ところがこの作業計画通りにことが運ばない。例えば作業計画が朝一番と午後一番でスケジューリングされるが、午前の後半入荷の部材は、データ入力時差の関係で午後一番のスケジューリングには反映されず、欠品として別計画が示される。また不良部品処理や、共通部材の流用処理も時にタイミングがずれるため、スケジューリングに正しく反映されない。工程管理者は作業計画のどこを信用し、どこを無視すべきか迷い、現物を確認するのが一番とばかりに1日中現場を駆けまわる。
工程管理者は、もし部材供給を切らして作業現場を遊ばせたら組長に怒鳴り込まれるし、製品の納期遅れが出ると営業や上司から火ダルマにされる。一方工程管理者の行動は、大・中日程計画から関連部門までに大きな影響を与える。工程管理者は、毎日毎日、翌日のことを心配しながら憂うつな夜をすごし、夢にまで見る。
こうして見てくると小日程・作業計画に関するB社の問題の原因は、工程・部材入手遅延が恒常的に発生する事態が放置されていること、日単位スケジューリングをする作業計画まで展開してしまったことではないか。すなわち、問題を抱えた旧体制のままSCMに突入してしまった体制上の問題、そして現場能力を超えたシステムそのものの問題である。
特に現場のデータ入力や異常処理が追随できない状態での日単位スケジューリング作業計画は、現場をただ混乱させるだけで廃止すべきであって、週単位の小日程計画にとどめ、その後は工程管理者の裁量に任せて柔軟に対応する方が実態に即している。
工程管理者が息子に誇れるために
今回で検討してきたB社のSCM導入後の問題を解決するには、まず直ちに打てる手としてSTを公平に査定できる調査係を設置し権限を強化すること、業務ルールを守る教育に取りかかること、日単位スケジューリングをする業務計画をやめて週単位の中日程計画に重点を置き、その後は工程管理者の裁量に任せる体制にすることである。
そして時間と根気を要することではあるが、外注メーカーや部材購入先の総合能力を見極めて部材納入遅延に対する抜本策を立てること、部材の発注方法や納入手番(リードタイム)を見直すことなどの業務改革を、根性をすえて敢行しなければならない。
ITを導入すれば、部材の入手遅延や工程ネックが自動的になくなり、不良などの例外処理が自動的にされるわけではない。しかし現実にIT稼働後、トップはじめみんなでシステムを放置しているということは、そう思い込んでいることと同じことである。
何よりも重要ですべての前提になることは、旧来の業務ルールを捨て去り、新しい業務ルールを設定してやり遂げるという意識改革である。
そうすれば、工程管理者がその仕事を息子に誇りを持って話すことができる結果をもたらすだろう。
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