幹部は営業マンの悲鳴に耳を貸せ:企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第12回(2/2 ページ)
CRMやSFAを導入しても業績に変化が起こらないのはなぜか。その第一の理由としてこうした営業支援ツールに対する誤解が挙げられる。
管理者向けシステムという誤解から生まれる失敗
さて、なぜいまCRM/SFAなのか? その理由を解くことからCRMの目的も見えてくる。
その理由はいくつかある。バブル崩壊以降市場が大きく変わったことが背景にある。(1)まず物が売れにくくなった。それに新規顧客開拓には費用も手間もかかるので、既存顧客の維持に注力した方が得策。(2)変化が激しく多様化する顧客ニーズへの対応が必要。(3)一方、労働市場の流動化により営業マンの流動化も激しく、チームとしての営業力養成、未経験者活用の体制が必要。(4)結果的に、低価格競争から脱却していきたい。
顧客主導の考え方で成功しているデルが、その効果を雄弁に物語っている。デルのホームページから一度注文してみれば分かる。需要主導の製造プロセスと、既存顧客へのアプローチのすごさを実感できる。
しかし、一般論をすべての企業に当てはめようとすると落とし穴にはまる。
CRMを考えるとき課題も目的も企業によって全く異なる。自分達の企業が置かれた立場と課題をよく理解した上で、一般論を良くかみ砕いて消化しなければならない。例えば、業務ルールが確立している歴史ある企業と未確立の企業とではアプローチが異なる。
また市販品システムを、特殊製品の案件受注をコアにしている企業には適用できない。あるいは、市場における先行者か後発者かによっても異なる。例えば先行者は主に既存顧客の情報収集に注力したシステム設計をすればよいが、後発者は他社顧客切り崩しや新規顧客開拓のために、顧客に会ってもらうところからのシステム設計が求められる。
CRM/SFAに失敗した企業を多く見てくると、さらにその落とし穴がいくつも見えてくる。
CRM/SFAは、管理のためにあるという考えがまだ根強い。営業マンにすれば「そんな内向きのことはやってられない」というセリフが浮かんでくる。管理指向のせいだろうか、盛り沢山の機能がありすぎて、営業マンにとって入力などが煩わしいし、必要ない機能が多すぎる。一方で営業マンは、肝心な顧客との濃密な情報を公開したがらないものだ。こうした情報を安易に入力させようとするのは、ITに頼らない個人対個人のコミュニケーション力や人間力に欠けた発想だといえるだろう。
以上から、次のことが営業支援システムを導入・稼働するときの必須条件といえる。CRMの本質を正しく理解して「顧客第一」を根底に据えること、身の丈に合った課題と目標を設定すること、そして管理指向に陥って過剰機能を求めず、人間力を備えること。
次回は、多くの落とし穴とその埋め方を、実例を挙げながら考えていこう。
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