「管理優先」の営業支援システムを蘇生させる:企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第13回(2/2 ページ)
レイムダック化した営業支援システム(CRM/SFA)をいかに「現場が使える道具」にするか、実例を見ながら検討しよう。
「顧客起点」と「人間力」が基本
さて、問題点ばかりを指摘してきたが、C社はそれらをどう解決したか。まずCRM導入目的を見直し、既存顧客シェアの維持・拡大、新製品を武器にした新規顧客の開拓、それを現存営業部隊でやり遂げるということを確認した。
はじめに「顧客第一」の発想に立ち返るべきだという筆者の長時間の説得にトップは納得し、その考えを「トップ主導」で全社に広めることから始めることを確約した。「顧客第一」とは「顧客起点」で考え・行動するということである。それは管理者の自己満足にしかすぎない管理指向(そこに創造的発想は生まれない)の考えを徹底排除し、内向き作業を時間と気持ちの上で最小限にし、全社的に(特に営業部門は)顧客の方に顔を向け、顧客要望を十分に把握し、それに応えるということである。そのために既存のシステム機能を無批判で受け入れず、無用な機能を大幅に削ぎ落とし、運用面でも工夫をした。
「行動予定・日報」については思い切って、成績のある一定基準以下の者にのみ入力させることにした。何故なら、(1)訪問回数と成績は無関係である(その証拠に、ある顧客に指摘されたが、ライバル社の営業マンは気がつくといつまでも立って待っているし、必ず何らかの提案を持って来ると言う)、(2)日報からは真の問題をつかめない(当たらず触らずのことしか書いてこない)、(3)従って成績のある基準以上の者は「行動予定・日報」から開放し、お客の方を向く時間を多くしてあげた方がよい、(4)そして好成績のノウハウについては営業会議などで話させる方が、機微に触れることができるし聞く方も身に付く、(5)そうすると、成績のある基準以下の者は入力の煩わしさから開放されようとして必死になる…というわけである。
ただし、基本になる顧客情報だけは確実に入力させるようにした。入力操作簡易化のためにマウスによるメニュー選択方式を採用したが、目下「音声入力」を検討中である。
「商談状況確認」についても何もかもを対象にして詳細を求めるのではなく、目前のフォローアップについてはこれも成績のある基準以下の者を対象とし、基準以上の者には自由に任せて、前出の案件を入力させてその多寡を問題とし、先手管理に重点を置くことにした。そして濃密な価値ある情報の収集、顧客との信頼関係構築などは、個人間の人間関係やコミュニケーションに重点を置いて、ITは補完するものとして捉え、その教育に腐心した。
レイムダック化したシステムを救うには、まずCRMを正しく認識し、目的と実行の強い意思を持つこと、そして人間力を要として、「体制」「運用」「システムオリエンテッド」の面で手を入れる。もともと用意されたシステム機能を全部使わず、目的に合わせて削ぎ落とすことが肝要だ。
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