シックス・アパート 代表取締役 関 信浩氏――「情報発信をイノベートするブログの使い勝手をさらに良くしていきたい」(2/2 ページ)
「Web2.0」という言葉に象徴されるように、インターネットの世界が第2の変革期を迎えている中、つい4年前に米国シリコンバレーで産声を上げたベンチャー企業が今、俄然注目を集めている。ブログ技術で新市場をリードするシックス・アパートである。その日本法人もおよそ2年半前に設立、独自の戦略で日本市場にブログブームを巻き起こした。同社が描く次なる戦略とは。
新しいメディアとしてのビジネス利用がカギに
シックス・アパートの米国本社はカリフォルニア州サンフランシスコに位置し、ブログ構築ソフト「Movable Type(ムーバブルタイプ)」とブログサービス「TypePad(タイプパッド)」を提供している。設立は2002年7月。ユニークな社名は、創業者であるベンとミナのトロット夫妻の誕生日が同い年の「6日違い」に由来する。
その100%出資子会社である日本法人は03年12月に設立され、Movable TypeやTypePadの日本語版を提供。Movable Typeを個人から企業ユーザーまで幅広く展開する一方、個人向けブログサービスとして有力なニフティの「ココログ」やNTTコミュニケーションズの「ブログ人(じん)」、企業向けブログサービスとして先行する日立製作所の「BOXERBLOG」やビック東海の「beblog(ビブログ)」向けに、TypePadをライセンス供給している。
注目のベンチャー企業の中でもひときわ目立つ同社だが、はたしてこれからの成長戦略をどう描いているのか。
アイティセレクト 競合も数多い中で、創業4年のシックス・アパートがブログ市場をリードする存在になったのはなぜですか。
関 現在のMovable Typeは、トロット夫妻がシックス・アパートを設立する前年の01年10月に開発したものが原形になっています。当時米国ではすでにブログツールが幾つかありましたが、ユーザーがもっと自分のブログを作り込みたいと思ったときに、それを満足させられるものがなかった。そこで夫妻は、簡便さを備えながらもハイレベルなユーザーの要求にも応えられる高機能なツールを開発し、自分たちだけでなく知人にも公開したのが、事の始まりです。
その高機能ぶりが評判になったのですが、一方で大きなポイントだったのはそのツールが世に出たタイミング。01年10月というと、同時多発テロが起こった「9・11」の直後で、個人が発言の場を求めて一斉にブログを使い始めた。加えて米国では政治的な活動にもブログが盛んに使われるようになり、夫妻の開発したツールはその後会社設立を経て瞬く間に広がっていったわけです。
アイティセレクト 米国ではその頃から一気に広がったブログですが、日本で認知されるまでにはタイムラグがありましたね。
関 日本法人を設立した03年の段階では、まだほとんど認知されていなかったですね。したがって日本市場では、ツールなどの販売とともにブログそのものの啓蒙活動を行う必要があった。そんな折り、当社がツールとともに提供を始めたブログのホスティングサービスであるTypePadにニフティさんやNTTコミュニケーションズさんが関心を寄せていただき、一緒にマーケットを開拓していく形で日本法人の活動をスタートさせることができました。
アイティセレクト 今後のビジネス展開で注力したい点は。
関 まずは先ほどお話ししたこれからのブログの発展形態を見据えて、ユーザーニーズに合ったツールやサービスを提供し続けていくことが、最大の使命だと考えています。
加えて、あらためてブログをメディアとして捉えたときに何が必要か。新聞やテレビなどのマスメディアとは異なったメディアとしての価値をどう生み出すか、を私たちは考えていかなければなりません。
最近、業界の間ではブログを「カスタマー・ジェネレーテッド・メディア(CGM)」と位置付け、これをどうビジネスに活用していくのかがホットな話題となっています。当社も大手広告代理店などと組んで、CGMによるマーケティング展開などの新たな事業開発に取り組んでいます。
そうした活動においても今後さらに重要になってくるのは、簡便で高機能ながら今以上に初心者にとって敷居の低いツールやサービスを提供していくことです。これについても当社はすでに、「Vox」と呼ぶ次世代ブログサービスを用意しており、日本でも今年中に本格スタートする予定です。
アイティセレクト 最後に、シックス・アパートはこれからどんな企業になっていくとお考えですか。
関 ブログは今や多くの人に使われるものになりました。ある意味でこれからはマンネリ化するのを防いでいかなければなりません。そのためにも、技術面はもちろん、応用面でも常にイノベーションを起こしていける企業になっていきたいし、そうありたいと思っています。
IT産業の歴史には、新しい技術やサービスの仕組みにおいて時代をブレイクスルーしてきた企業が幾つかある。IBM、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズ、オラクル、ヤフー、グーグル……。シックス・アパートもブログを世の中に広めた立役者として、「時代の寵児」になりつつある。日本市場でのビジネスのポテンシャルもまだまだ大きい。かつて同業者だった関氏の手腕に大いに期待したい。
プロフィール●せき・のぶひろ
1969年10月生まれ、東京都出身。94年東京大学工学部卒業後、2003年まで技術系出版社で編集や事業開発に従事。02年米カーネギーメロン大学ビジネススクールで経営学修士(MBA)を取得。03年12月シックス・アパート日本法人を設立し、代表取締役に就任。米国本社の上級副社長も兼務。
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