「映像新時代」の本質を探る:インターネットと映像新時代 第2回
「映像新時代」がやってくるとすると、その本質はどこにあるのだろうか。テレビの視聴率低迷の原因を考えると、動画ビジネスにおける本質的な問題を、そして「YouTube」の仕組みを考えてみると、「映像新時代」の本質が見えてくるようだ。
動画配信における本質的な問題
テレビの視聴率低迷の要因として、携帯電話やインターネットなどの普及で若者のテレビ離れが進んでいるというのは、それなりの説得力がある。最近の若者は以前に比べてあまりテレビを見ないというデータは、確かによく見かける。テレビ世代は中高年化しており、一方で供給される番組が相変わらず若者をターゲットにしているというミスマッチを指摘する意見は、視聴者側からも聞かれる。
しかし最も基本的なこととして、「視聴を集める努力=良質なコンテンツ」ということに、問題を感じているのは筆者だけではあるまい。端的な例として、お笑い芸人を飛び込み競技の高台に立たせてプールに飛び込む決心がつくまでの様子を何分間も流したり、タレントにパチンコをやらせて当たりが出る様子を撮り続けたりといったものがある。ある種の視聴を集める技法であることは分かるが、それが人間のどういう性質を狙ったものかを考えれば、その刹那性が求められる本質と大きく乖離していることは明らかだ。
人気タレントを主役に据えたドラマが、視聴率低迷を理由に放映予定回数を減らして打ち切りとなるケースも目立つようになった。主役タレントの人気がその程度だとか、共演者に魅力がないとか、脚本が悪いなど制作上の問題点は考えられるのかもしれないが、個人的に一番気になるのはそういうことよりも「数字が低いので打ち切る」という安易な姿勢である。
現在のテレビ局が制作と分離した業界構造になっているのは理解している。しかし動画ビジネスにおける配信とコンテンツ制作のバランスをいま一度考えてみることは、動画配信を含めたこれからのテレビ型ビジネスモデルの将来にとって、本質的な問題ではないだろうか。
「YouTube」が示唆するもの
最後に、最近のインターネット動画の話題では欠かすことのできない、米国のサービス「YouTube」について触れておきたい(※1)。彼らは何者なのか。ウェブサイトに掲げられている、利用者に何ができるのかを説明した記述は以下のようになる。
- 世界レベルでの動画の投稿、分類、共有
- 会員による数百万本の自作動画の視聴
- 共通の関心を持つビデオ仲間とのさまざまな交流
- APIを活用した自身のウェブサイトでの動画配信
- 家族や友達に限定した動画の配信や共有
要するに、最近話題のCGMとWeb2.0のトレンドを、そのまま動画というコンテンツを対象に特化して展開したインターネットサービスである。
ソニーが同様のサイトを買収したり、NTTが同様のサービスを計画したことが報じられた(※2)。これらは、最近のインターネット動画ビジネスの関心を一気にさらった感があるが、それが示唆する動画配信の仕組みに関する可能性はもちろん魅力的で、「映像新時代」の本質の一部であることは間違いない。
しかし、「場をつくれば何かが起こる」というほどこの世界は甘くはない。「YouTube」のようなサービスも、その意味でのサプライズの段階は既に過ぎようとしている。ブログやSNSで起こっているように、ここでも「映像」そのものに潜む魅力こそが価値であり、最終的に収益の源泉であることには本質的に変わりない。それが、国家機密であれ、政治家のスキャンダルであれ、まばゆいばかりのCGであれ、子どものズッコケ場面であれ、離れて暮らす家族の様子であれ、じっくりと練られた短編映画であれ…である。新しい仕組みが映像の価値そのものに関心を払わなければ、映像ビジネスそのものの根幹が揺らぐことになるだろう(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第八回」より。ウェブ用に再編集した)。
なりかわ・やすのり
1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
※1 本誌掲載時では、まだグーグルによる買収は発表されていない。
※2 NTTは2007年2月28日まで動画共有トライアルサービス「ClipLife」を展開中。
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