経営者よ、管理者よ、「裸の王様」になってはいませんか?:企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第20回(2/2 ページ)
ある程度年齢を重ね、キャリアも積み、役職が上がってくると「改めて学ぶ」ということから遠ざかりがちだ。勉強の足りないベテランほど淘汰の対象になる。
私物化社長が育てるピント外れのイエスマン
ITについてばかりではない。経営一般についても、経営者や管理者はいかに勉強不足か。
零細企業のオーナー経営者ならいざ知らず、大企業の中でも永年勤め過ぎた社長が企業を「私物化」する例は決して珍しいことではない。C社長は、人事面で自分の息のかかった者や自分に対する私的貢献者、あるいは自分が世話になった昔の上司の子息を優遇したり、思い込みという教条主義的基準で経営を判断したりすることで、「会社を私物化している」と噂された。C社長は気の毒なことに、退任する頃にはすっかり裸の王様になっていた。
中堅管理者についても同じことが言えるが、いずれも勉強が足りないのである。勉強が足りないから、己の経営姿勢を客観的に見る視点を失っているのである。
雇われの身とは言え、トップの言いなりで自己保身に汲々とする経営者や管理者が多い。
笑い話のような実話がある。某大企業で、業績不振が続くある事業部門のD部門長が経営会議で事業部門の経営方針を発表したとき、トップから「対策は従来からの延長で、決定的なものが見られない。このまま行くと、人を減らすしかなくなるぞ」と叱咤された。D部門長は、部門に帰ると「社長が人を減らせと言った」と、早速人員削減に取りかかった。根本策を考えずに必要な人材まで削減されたその部門は、その後ますます衰退していった。
これはイエスマンが高じてピント外れの先読みマンになったケースだが、経営の何たるかを勉強しないから陥る弊害である。あらゆる場面で、自分の考えをしっかり主張し実行できるだけの知的蓄積と根性が備わっていなければ、経営者や管理者を降りた方がよい。一方よく読書はするが、戦略的思考に欠けて常に近視眼的言動を取るトップもいる。読書だけでは、いかに多くをこなしても、臆病で自己保身的思考から脱却できない。
置いてきぼりを恐れる緊張感こそ「常備薬」
さて、「勉強しろ」と言っても長年勉強しない癖がついている経営者や管理者にどのように動機付けをし、どのようにその方法を説いたらよいのか。
トップも経営者も管理者も、いずれも常に自らに緊張を強いなければならない。「勉強をしないと、置いて行かれる」という強迫観念を自らに植え付けなければならない。経営者も管理者も選ばれた人々であるから、自らに緊張を強いる力を持っているはずである。
どうも初歩的なことを今さら主張しているようで心苦しい面もあるが、実は自らに緊張を強いる力を持ち合わせていない役員を多く見ているから、わざわざ主張せざるを得ない。
つい数年前に、役員になって一丁上がりという認識を持ったE取締役がいた。「役員になってまで、何故こんなに苦労しなければならないのか」というのが、Eの口癖だった。
親会社から天下った子会社のF役員は、「親会社の緊張感に比べれば、ここは天国ですよ」と公言してはばからなかった。彼らは正直者の単細胞ではあるが、口に出すか出さないかの違いであって、ほとんどの者が同じようなことを考えている。恐ろしいことである。
しかしEやFのような役員は、いずれ淘汰されていかなければならない。
では「勉強する」ということは具体的にどういうことか、次回触れたい。
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