経営者よ、管理者よ、「針のむしろ」に座ってみませんか?:企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第21回(2/2 ページ)
キャリアも積み、役職が上がってきた人ほど「改めて学ぶ」ということが大切だ。勉強というのはいつになっても苦行が伴う。しかし苦しい分、得るものも大きい。
「時間がない」は言い訳にもならない
しかし、そんな「勉強」の時間がとてもない……という声が聞こえてきそうである。ちょっと待ってほしい。時間などは、作ろうと思えばいくらでもある。それに自分がいなければ経営が回らないと思うのは本人のみ、それほど四六時中必要とされていない。また、経営者や管理者の不在が部下を育てる、とも言われる。問題は自分を追い込む緊張感を持てるか否かであり、その強迫観念が時間を生んでくれる。
こうして経営者や管理者は「勉強」することにより、知的蓄積が豊富になり、戦略眼が養われ、創造的発想が可能となる。経営センスはますます研ぎ澄まされるだろう。そして筆者が、コンサルティング時に経営者に面談をして失望する機会も減るだろう。
ところで、経営者や管理者には「後継者を育てる」という責任がある。
自分の勉強の他に、部下に勉強をする機会を与えなければならない。しかし多くの場合、部下に対してただ「勉強しろ」と繰り返すだけである。事実よく見られる光景だが、上司の誰もが異口同音に「勉強しろ」と叫んでも、その声が空しく反響するだけで、誰も反応しない。方法論を提供しなければ、一向に事態は改善しない。
筆者が若い頃勤務していた工場で、G総務部長の音頭で季刊の経営研究誌が発刊された。
「この研究誌を通して我々が切磋琢磨できればよい」「研究報告と言わず、調査でも見聞記でも、読書紹介でもいい」とG部長の創刊の言葉にある。事務系の工場員はこの研究誌に論文を発表することに憧れ、論文掲載を目標に自己研さん・切磋琢磨が始まった。
やがて技術系の有志によって季刊の技術研究誌も発刊された。これと平行して、発表会も定期的に開催されていた。発表会のテーマは仕事に限らず時事問題・趣味にいたるまで幅広く、その場を通じてお互いの研さんが行われた。
非常に重要なことは、これらがいずれもインフォーマルに行われたことである。インフォーマルなところに、職制から強制されない自主性があった。これらの例は、従業員に勉強の機会を与えるという極めて優れた方法である。
H部長は、部下に対して「勉強しろ」という抽象的なことは言わなかった。会議があったついでなどに工場内の図書室に寄ったり、街の図書館に立ち寄ったりして、目ぼしい書物のタイトルや雑誌の目ぼしい目次をメモしてきては、部下に「これを読んで、わが社との経営比較をして報告してくれ」とか、「これを翻訳して、要約と感想を聞かせてくれ」などと言って、手渡した。部下は否応なしに勉強した。H部長自身の勉強にもなったろう。
経営者・管理者は「勉強しろ」とただ叫ぶだけでなく、部下に勉強させる具体的方法や場を提示しなければならない。
自ら範を示し淘汰されないリーダーとなれ
経営者・管理者は、常に勉強するということを心がけなければならない。そのために「勉強をしないと、置いて行かれる」という強迫観念を持って、自らに緊張を強いなければならない。さらに、後継者を育てるために社内に勉強をするという企業文化を作っていかなければならない。そのときただ勉強しろと叫ぶだけではなく、具体的な方法論を示したり、機会を提供したりしなければならない。それは、むしろ経営者・管理者の義務である。
多くの経営者・管理者が、この程度の文章にもかかわらずこれを目にして、自らを素直に省み、自らに緊張感を持たせることができることを筆者は祈る。しかし、それができない人々がいるだろう。彼らは、いずれ淘汰されていくのではないか。
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