ソフトバンクモバイルの次の手は孫正義の強さが裏打ちする!?:「行く年来る年2006」ITmediaエンタープライズ版(3/3 ページ)
番号ポータビリティ(MNP)制度の導入の際、非常に注目を浴びたのはソフトバンクモバイルの動きだった。あのとき、そしてその後、何が起こったのだろうか。代表取締役社長の孫正義氏の言動から、その舞台裏を探ってみた――。
通常の決算説明会であればこれくらいでお開きになる。だが、「第2四半期決算説明会」は続いた。アナリストらの多くは退席したこともあり、満席だった会場には空きも目立っていたが、報道陣の間には「何かが聞ける」といった雰囲気がまだ漂っていた。
その後、孫は一つ一つの質問に必死になって答えた。それは、その誠意が報道されることを期待したからに違いない。マイナスイメージ払拭を試みたはずだ。それゆえ、くだらないと思えるような質問に対しても、丁寧に対応していた。報道陣の間に「これ以上何を聞けばいいのか…」というとまどいが見え始めると、逆に前のめりになり、「ほかにありませんか。どんなさ細なことでも構いません」と、逆に質問をあおった。
時折、どんよりとした時間帯も押し寄せた。報道陣も少しずつ引き上げていく。だが、孫は続けていた。20時も過ぎて、残る報道陣が20人ほどになったにもかかわらず、だ。それは、孫の並々ならぬ強さと執念を感じさせるものだった。
出るか 新「奇策」発表のとき
MNP制度を利用しているユーザーは、全体の1%ほどだといわれている。とはいえ、実数にすれば100万人級になる。そのため、3キャリアの月々の営業成果にはしっかりと影響を及ぼしている。
各報道によると、ドコモは11月、初めて月の新規契約者数の純減を経験した。解約者数が新規契約者数を上回り、結果的に2万件近くマイナスになった。MNP制度だけで約16万件の純減だったという。一方、KDDI(ツーカーも含む)は、MNP制度でプラス約23万件となったことが寄与し、33万件近い純増を達成した。明暗は大きく分かれた。気になるソフトバンクモバイルは7万件ほどの純増となったものの、MNP制度だけだとマイナス約5万件。「奇策」が奏功した側面と不具合続きのネガティブ要因が交錯した結果ということだろう。
野村総合研究所が公表した携帯電話市場の予測では、今後1年間において、携帯電話利用者の増加数が約350万人にとどまるのに対しMNP利用者数は1050万人にも上る。「純粋な新規パイ」よりも、「移り気な既存パイ」の方が大きいと考えられている。だとすると、MNPでキャリアを移動するユーザー数がたとえ全体の数パーセントでも、キャリアの地位を揺さぶる地殻変動の源となる可能性は非常に高いということだろう。
ソフトバンクモバイルが打ち出した「奇策」は、2007年1月15日までという「時限付き」で発表された。ただ、それはあくまでも「一応」だ。「時限」が解除され、同16日以降も継続される可能性もある。あるいは、また新たな奇策を講じてくることだって考えられる。だとすると、同15日までに「06年10月23日の再来」の機会が訪れるかもしれない。
孫は会見によっては饒舌になることから、会見が長くなることがある。後半になると、「まだ続くのか」といったつぶやきがカメラマンの間に飛び交うことがしばしばある。集中力を欠き始める記者陣も多い。それでも孫は、ずっとマイクの前に立ったまま、話し続ける。声のトーンは変わることはない。たたく側の報道陣の弱さが露呈される中で、彼の強さはひときわ目立つ。「打たれ強い」証拠といえるだろう。
そんな強さが、富士山登山をものともしないのだろうか。広告表示においては、ソフトバンクモバイルのみならず、ドコモもauもそれなりの「おとがめ」をくらった。MNPにおけるシステム障害では、auも同様に憂き目を見た。そうした流れを見ると、意外と早い時期に五合目に到達することも、なぜか不思議には感じられなくもない。
「強い孫」の姿に、年明けまもなくお目にかかることになるだろうか。1月15日あるいはその数日前に緊急会見か――「会見のお知らせ」が来るのに備え、報道陣は自らの体力を鍛えておく必要がありそうだ(本文中敬称略)。
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