歯の浮くようなセリフより大切なものを探せ:企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第22回(2/2 ページ)
何事も解決のためには、実態に合った具体的な方法論が必要だ。人材育成も単なる掛け声ではなく、時には背水の陣にまで追い込む覚悟が必要だ。
まず遠慮せず部下を叱れ!
企業の中の経営についても、同じである。ただ単に気合を入れても、あるいは単に総論を声高に叫んでも、経営の実態は変わらない。業績改善のような結果が数値で現れるテーマの場合は、方法論が具体的になる可能性はある。しかし昔から叫ばれている「勉強しろ」、「部下を教育しろ」、あるいは「頑張れ」など、結果が数値化できない人材育成のようなテーマの場合は、ただ抽象的に叫び続けられても結果が見えないだけに、ことさら「方法論」の議論が求められる。しかも通り一遍でない、有効な「方法論」の議論を。
今回は、経営にとって最重要テーマの一つであり、企業文化として定着させなければならない「人材育成」に焦点を当て、その実現のための「方法論」を考えてみたい。
どのように勉強すればよいか・部下を教育すればよいか・あるいは頑張ればよいか、言われた方は皆目判らない。言う方も同じセリフを繰り返す。しかし事態は変わらない。いや近年、方法論どころか「勉強しろ」「教育しろ」と口にさえしない傾向にある。
例えばここ数年ゴルフをやる度に痛感することがある。昔ゴルフを始めた頃、上司や先輩からマナーやルールについてうるさく注意された。そのお陰でマナーやルールが身についた。最近部下や若者に注意しても効果がなく、やがて諦めてしまう。多くのゴルフ場でマナーやルール違反が氾濫している。職場でも同じだ。上司は部下にうるさく注意を与えない。職場でマナーやルール違反が多い。部下がなかなか成長しない。そんな悪循環に陥ってはいないか。
まず恐れず、あきらめず、おっくうがらずに、部下を叱り、注意を与え続けることを始めてみよう。
「知」の先行は逆効果
今回は、「勉強しろ」と指示する場合に提示すべき方法論について考えたい。
勉強せざるを得ない背水の陣の状況に追い込む方法はどうか。お客からデジタル研修会に講師を依頼されたA営業係長は、周囲から事務屋のAには無理だと陰口されながらも、10話すには20の知識が必要だと自ら必死に勉強し、立派に講師をこなした。また、関連会社から設計標準化研修の講師派遣を要求されたある幹部は、これも事務屋のB工程管理課長を推薦した。設計書を受け取る立場からの話を期待したのだ。ミスキャストと言われながらBは、設計部門に2カ月間入りびたりで勉強した。結果は大好評だった。
しかし、有効でない例もある。C幹部は、日頃から部下に盛んに読書を薦めたが、読書家であるCは「知」が先行したのか、日常の管理面で「人の痛み」を理解する余裕がないと評されていた。知識だけでなく、部下の気持ちを汲むというCにとって足りない部分を指摘し、気づかせる先輩、上司がこの場合、必要だったのである。
読書は必須だが、読書だけが勉強ではない。例えばITについて関連書などを読むだけでなく、他社のIT導入例も見聞し、経営者・幹部が関係者と徹底議論する場を持つことにより経営者から担当者までが勉強になる。あるいは設計者に営業の第一線で営業マンや販売員を経験させると、設計者には否が応でも勉強になる。また研修会に参加させてB/SやP/Lを座学で勉強させるより、小さな関連会社に放り込んだ方が勉強になるケースは多い。
ここに示した例は当たり前のことであり、ほんの一例にしか過ぎない。ただ言えることは、勉強の方法論の提示とは勉強の「手段」「場」「時」を示唆することである。しかし例に示したように、方法論をただ示唆すればよいというものでもない。当事者の心を動かし、行動を起こし、実効果が現れるような有効な方法論を提示しないと意味がない。知識を蓄え、それを応用する経験も大切だし、人として他人の立場を考え、対応するというのも、大切な勉強なのだ。
ただ「勉強しろ」と気合を入れたり、「最近、皆勉強しなくて困る」とこぼし合ったりする時間があるなら、勉強をさせるための「有効な方法論」の議論をすべきである。
経営者や幹部は、「読書と現場体験で勉強をさせる」「勉強の方法論を議論する」ことを企業の中で日常的に積み重ねることにより、それが当たり前になり、企業のDNAになって企業文化に昇華するまで、根気強く取り組まなければならない。
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