「先輩、どうして隠すんですか!」――知恵の埋蔵量を知らしめよ:“若葉マーク”社員を活性化させる「実感主義」の育成戦略(2/2 ページ)
「誰も何も教えてくれない」とぶつぶつ文句を言う若手社員は多い。「情けない、誰に何を聞けばいいかぐらい自分で考えろ!」とどなりつけたくもなるが、中堅以上の先輩社員たちの中でも若いころ、「隠さないで教えてくれれば仕事が早く済んだのに」と先輩を恨んだことはなかっただろうか。
知恵の存在を知ることでモチベーションが高まる
実際に、ある建設関連の会社ではナレッジマネジメントの手法の中で「Q&A」という仕組みを使い効率的な情報共有と蓄積を行っている。
こうした仕組みを導入する前、この会社ではプロジェクトごとにチーム編成してベテラン社員が若手社員に仕事の中で必要な知識を教えていた。しかし仕事の量が増加してくると、ベテラン社員のいない若手中心のチーム編成になるケースが発生してきた。すると今までベテランがそばにいてすぐに「こうすればいいんだ」と教えることができなくなる。特定のベテランが全ての知識を持ち合わせているはずもない。ベテラン社員は自分の不案内な分野のことは、自ら培ったネットワークで解決することができるが、若手社員はそうもいかない。
管理職は中堅クラスの社員から抜擢するにしても、現場での「匠」といわれるベテランはこれからどんどん退職していく傾向にある。ベテランの知識をどんどん若手に学ばせたいのは山々だが、一朝一夕にはいかない。座学だけで継承できるのはほんの一部の知識、ノウハウでしかない。
そこでナレッジマネジメントの手法を取り入れ、ポータルを構築し、ネット上で仕事上の具体的な質問ができるようにした。ベテラン社員たちの中でも技術的な優れている人材を回答者にすえて、時間をかけずに質問に答える仕組みを作ったのだ。
もちろん同じ種類の質問に対してはその都度FAQを作り、ポータルサイトに掲載している。
若手社員はこの仕組みを利用することで何を得るのかといえば、それは「知恵の存在」だろう。仕事をしていく中で自分の現在の仕事に即した知恵や知識が会社蓄積されていることを知る。そうした実感が、仕事への意欲を高め、モチベーションをあげていくきっかけになることは言うまでもない。それは小さなきっかけなのかもしれないが、その知恵がもたらす仕事上の効果を実感することは大きな好影響をもたらすはずだ。日ごろ文句の多い批判分子的若手社員も、組織に蓄えられた知識の層の厚さに、「うちの会社も捨てたもんじゃないな」と思い直すかもしれない。
ドキュメントの限界を補うコミュニティ
こうしたベテランの知恵とノウハウは文書などドキュメントに残していればいい、という意見もある。コミュニティまで作る必要はあるのか、という疑問である。
確かに過去の仕事の詳細を丁寧にドキュメント化してあれば、それらをつぶさに確認することで、若い社員が「なるほど」と納得できる知恵を獲得することができるだろう。しかし、それだけではなかなか伝えきれないものもある。
例えば、ある問題が起こって、対処方法がドキュメントに残っていたとする。何かの部品を問題の箇所にジョイントさせればいい、そんな知識を得たとしよう。先輩の仕事のドキュメントを確認してその通りにやってみる。しかしどうしてもうまくいかない。そんなことがよくある。
これには理由がある。ドキュメントでは「Aという部品を問題箇所にジョイントさせればいい」とあるだけだが、実は、ジョイントする場合のさまざまな条件があり、それらをクリアして初めてうまくいくというような、「隠れノウハウ」がある場合が多いのである。
「隠さないで書いておいてくれればいいじゃないか」と言いたくもなるが、全ての仕事に対して細かく抜け落ちのないようにノウハウを記録し、ドキュメント化することはほぼ不可能な作業だともいえる。
PCの操作などを例にして考えると分かりやすい。問題が起こったときに、解決方法を探して試してみるというのは多くの人が経験しているはずだ。そして書かれてあるとおり、言われたとおりにやっているのに、まったく解決できないというケースに遭遇したことはないだろうか。
そんなときはどうするか、多くの人はPCに詳しい友人や知人に事情を説明して助けを求めるだろう。すると何のことはない、ちょっとした操作を加えただけで、問題解決することが多いはずだ。
若い人材が仕事の問題で行き詰まった時、自然な形で専門的な領域について解決方法を求める場所があると、仕事のスピードは格段に上がる。コミュニティの中で現場を熟知したベテラン社員、「匠」クラスの人材が詳細に解決方法をすぐさま若手社員に伝えることの効果は計り知れない。
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