辞めたくなっても大丈夫――パターン化された思考からの脱出:“若葉マーク”社員を活性化させる「実感主義」の育成戦略(2/2 ページ)
会社の中にコミュニティサイトを作ることで、若手社員が元気になることがあるという。仕事に関連したもの、自由な発言が許されるもの、さまざまなコミュニティでのやり取りの中で、今まで得られなかった視点の獲得が活性化の秘密だ。
心地よい緊張感と安らぎの併用
村田氏はこうしたコミュニティにも種類があると話す。
「仕事に直接結びつく、高度なナレッジをやり取りするコミュニティを紹介しましたが、もっと柔らかいコミュニティを作っている会社もあります。匿名での発言を許され、発言の内容にさほど厳しい縛りのないものです」
仕事での問題解決に利用するコミュニティでは、ほどよい緊張感が必要と説明したが、匿名で自由な発言が許されるコミュニティとはどんなものなのか。
村田氏によると、「仕事の楽しさがわからなくなりました」とか「この仕事を辞めたくなりました」という発言があると、ネットワークを通じて、全国からコメントが寄せられるようなサイトを企業内で運営している会社もあるという。
「仕事上の具体的な質問もあるし、そうした個人的な発言もある、非常に自由度の高いサイトですね。プロジェクト毎にコミュニティを作り仕事のナレッジを共有するというのが、本来のナレッジマネジメントなのかもしれませんが、もう少し柔軟なコミュニティを別に作ってもいいと思います。硬軟取り混ぜてという考え方ですね」と村田氏は話す。
自分が参加しているプロジェクト単位のコミュニティでは緊張感が伴うやり取りが繰り返されるが、一方でちょっとした思いを誰かに伝えるようなものがあると特にITリテラシーの高い若い社員は安らぎを得られるかもしれない。
私人に戻って、プライベートなコミュニティの中で、苦しい胸の内を吐露するのも手だが、背景がばらばらの不特定多数のコミュニティの中では仕事内容について理解されないことも多い。それに比べて同じグループの中であれば、同じ仕事を経験してきた人たちからいろいろなアドバイスを受けることができる。
当然、特定の個人を中傷するような発言、他人のプライバシーに関わる発言は禁止だが、それ以外であれば、原則自由に発言できるサイトでは、予想以上にいろいろなコメントが寄せられるという。
いくら匿名といっても、当然コミュニティを管理する会社は調べれば人物を特定できるだろう。しかし、会社にとって明らかに不利益になるような発言以外は原則自由とし、同じ仕事に取り組む仲間同士の連帯感を高める場としてコミュニティを育てることは、成長途中の若手社員には有益なのではないだろうか。「自分も同じ仕事をしていたときに同じ壁にぶつかった」という体験談を聞くだけでも、普段行動を共にしている同僚たちからは得られない安らぎを得られる可能性は高い。
壁を突破するためのコミュニティ
ここまで、若手社員が自分の成長を実感することを助けるコミュニティについて論じてきた。
例えばプロジェクト単位の「仕事中心コミュニティ」、あるいは仕事に関する疑問を解決するコミュニティはワークフロー全体に組み込まれ、それなしでは仕事が進まないものとして位置づけられる。
そして自由な発言が許されるコミュニティでは、逆に匿名を許可される場合もあり、書き込みも気軽にできる。この両方のコミュニティに共通しているのは、ネットワークを通じて普段接する人とは違う多くの階層の人たちに発言したり、アドバイスを受けたりすることができるという点だ。
日ごろは現場が生活の中心になり、どうしても視野が狭くなる。一つの会社にも、さまざまな考え、知恵を持つ人間がいることを意識するのは、成長の実感を希薄にする「壁」を突破してしまうことに力を発揮するはずである。
確かに若い社員は、「仕事の型」を覚えこむことが大切だ。朝から晩まで同じメンバーとともに行動することによって、連帯感もでき、仕事の手順も身につく。しかし、そうした生活の中で確実に見えなくなっていくものがある。若い社員は数名のチームの中でも階層として最も下に位置して仕事をする。階層の上にいて、判断をし、命令を下す立場の人には分からない、あるいは忘れてしまった圧迫感を感じることも多いはずだ。
そうしたプレッシャーから開放して、モチベーションを回復させるには、新しい視点、知識、方法論、環境の中に置くしかない。パターン化された思考からいったん自由になることが大切だ。これは単純に人事ローテーションで解決できるだろうか。おそらく無理なのではないか。先輩、上司の顔が変っても同じ生活、思考が待っているだけだからだ。
だからこそ、ウェブ上のコミュニティで出会う同じ会社やグループの人たちとのコミュニケーションが新鮮で、よどんだ気分を打ち消す特効薬になる可能性があるのだ。
次回は、バーチャルな空間ではなく、日常のチームから引き離し若手社員を活性化させる取り組みについて紹介する。
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